トリプル改定の中間まとめから読み解く「変化」~調剤報酬だけではない!注目ポイント|タカヒラの薬局動向PICK UP(8)
2024年の調剤報酬改定まであと1年を切ったところですが、来年の調剤報酬改定に向けた議論が関係省庁では着々と進んでいます。その議論の背景を紐解くと、来年以降の薬局経営のヒントを「先取り」することができる……! |
解説する人:タカヒラ
医療経営士。MRで複数社を経験し、現在はKAKEHASHIでマーケティングを担当。猫と娘と関係省庁が出す資料(PDF)を夜な夜な読み込むのが好き。薬局経営者の方々の意思決定のお手伝いができるよう、日々精進しています。 |
8月末、令和6年度(2024年度)に向けた中医協の議論(いわゆる第1ラウンド)がまとまりました。同じ時期、社保審介護給付費分科会、そして障害福祉サービス等報酬改定検討チームでも令和6年度(2024年度)の改定に向けた方向性の議論が出そろっています。
そこで今回は、トリプル改定のすべての領域から、中間報告などを踏まえた注目ポイントをまとめていきたいと思います。
目次
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2024年度に向けて診療報酬改定で押さえたい3点
まずは調剤報酬に関する議論のみに注目したいところですが、ここでは診療報酬全体の大きなトレンドを押さえます。膨大な議論の中から、デジタル、多職種連携、在宅薬剤管理の3点にしぼって見ていきましょう。
■ デジタル
「デジタルトランスフォーメーション」「デジタル基盤の整備」など、さまざまな取り組みが進んでいることを踏まえると、「デジタル」は見落とせないキーワードです。
中でも、以下の2点については国の大きな流れに位置づけられていることもあり、薬局関係者のみなさんにとっても、国や他の医療機関、ITベンダーなどへの情報収集が欠かせない部分ではないでしょうか。
おもに議論されているポイント
- 電子処方箋、オンライン診療の拡大
- 全国医療情報プラットフォーム構築と電子カルテ情報の標準化
中医協での議論はもちろん、厚労省による来年度の予算概算要求にもこれらを推進させる方向性が示されています。
■多職種連携
多職種連携においては、「医療」と「介護」における橋渡しの必要性が議論されています。
おもに議論されているポイント
- かかりつけ医の議論の継続
- 介護支援専門員等との連携強化
真っ先に注目されているのが医師とケアマネジャーとの連携ではありますが、「橋渡し」の中には、薬剤管理に関する議論もされており、薬局薬剤師が注目したいポイントでもあります。
■在宅薬剤管理
そして、第8次医療計画の議論からずっと論点になっている在宅領域も、改めて中医協で議論がされました。在宅医療への需要増が見込まれる中、在宅における薬剤管理の重要性が改めて確認されています。
おもに議論されているポイント
- 大幅に需要が増える在宅医療への対応
- 在宅薬剤管理の論点
在宅医療に関しては非常に論点が多いので、まとめてみました。
- 医師同行の必要性
- 高齢者施設の類型に応じた評価の必要性
- 終末期対応のより詳細な評価
- 周辺の薬局との連携の明示
- 医療保険と介護保険算定の整理として中心静脈栄養と麻薬持続点滴の点数の整理など
これらが今後どのように整理されるのか、注目です。
出典:中央社会保険医療協議会 総会(第553回)総会資料 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212500_00203.html
介護報酬はこの3点に注目
ここでは、介護報酬改定について議論している社保審介護給付費分科会の資料に基づき、認知症の方への薬剤管理、施設間・職種間の連携、新サービス検討の3点をピックアップして解説します。
(1)認知症の方への薬剤管理
認知症については、同時改定意見交換会における薬剤管理の議論でもピックアップされたテーマで、服薬管理が果たす役割の重要性が強調されました。
~同時改定意見交換会のおさらい~
【テーマ5】認知症
地域包括ケアシステムにおける認知症の人への対応
医療機関・介護保険施設等における認知症の人への対応
認知症の人にる医療・介護の情報連携
詳しくは連載第2回で解説していますので、薬局が押さえたいポイントを知りたい方は以下をご覧ください。
認知症に関連して、介護業界で注目されているキーワードは、「共生」と「予防」です。
認知症施策推進大綱
【基本的考え方】 認知症の発症を遅らせ、認知症になっても希望を持って日常生活を過ごせる社会を目指し認知症の人や家族の視点を 重視しながら「共生」*1と「予防」*2を車の両輪として施策を推進
*1 「共生」とは、認知症の人が、尊厳と希望を持って認知症とともに生きる、また、認知症があってもなくても同じ社会でともに生きるという意味
*2 「予防」とは、「認知症にならない」という意味ではなく、「認知症になるのを遅らせる」「認知症になっても進行を緩やかにする」という意味
出典 https://www.mhlw.go.jp/content/000522832.pdf
認知症は、入院から退院、外来、在宅、いずれでも医療と介護の連携が欠かせません。「共生」と「予防」という大きな方針の基に施策が推進されているという点は、ぜひ押さえましょう。
出典:第222回社会保障審議会介護給付費分科会資料 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_34837.html
(2)施設間、職種間の連携
さらに、介護領域における「入院から退院」についても議論がされています。介護報酬の中では、薬局薬剤師を含む医療従事者による居宅療養管理指導は平時の連携とされ、入院時は、その前後に様々な連携に関する加算が設定されているのがわかります。
出典:第222回社会保障審議会介護給付費分科会資料 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_34837.html
同時改定意見交換会などでも、医師とケアマネジャーのさらなる連携の必要性が議論されていたことからもわかるように、医療と介護における連携の重要性が唱えられています。では具体的に、介護職は医療従事者にどのような情報提供を期待しているのでしょうか。それをうかがい知ることができるデータがあります。
出典:第222回社会保障審議会介護給付費分科会資料 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_34837.html
介護支援専門員(ケアマネジャー)が、ケアプランに反映する上で医師に詳細な情報提供を期待したことがある事項として、「投薬内容を含む治療に関すること」「医療系サービスの必要性の評価」「医学的観点からの留意事項」「体調変化等への対応方法」などが含まれています。
一方、医師だけで医療に関するすべての情報を網羅できるのかという観点で考えると、薬剤師による情報収集と多職種との連携の必要性が垣間見えます。
出典:第222回社会保障審議会介護給付費分科会資料 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_34837.html
このように申し上げる背景は、視覚的にご覧いただくとさらに分かりやすいかと思います。
上に示したのは、「在宅医療と介護連携イメージ」という図です。緩和ケアの提供、入退院前後での連携など、在宅医療において薬剤師の能力発揮が求められている部分が少なくありません。
医療と介護の連携においても、同様に薬剤師の知見が必要であると言えそうです。
(3)新サービス検討
3つめは、新しい介護サービスの話題です。
出典:第222回社会保障審議会介護給付費分科会資料https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_34837.html
2022年12月、社保審介護保険部会が介護保険制度の見直しに関して「複数の在宅サービス(訪問や通所系サービスなど)を組み合わせて提供する複合型サービスの類型などを設けることも検討することが適当」とする意見を出しています。
これは施設系ではなく、訪問と通所系のサービスを組み合わせるイメージで議論が進められています。
薬局薬剤師の方々にとっては、連携先が増える可能性がある点は覚えておきたいポイントです。
障害福祉サービス領域は、第8次医療計画の方針と併せて読み解く
障害福祉サービスについては、「医療と福祉の連携の推進」をピックアップします。
検討の視点として、障害の重度化や障害を有する方の高齢化、医療的ケアが必要な障害者や医療的ケア児、精神障害者、難病患者などへの支援の必要性を踏まえ、多様な障害特性にも配慮した連携の必要性が議論されています。
出典:第35回「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」資料 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_34951.html
第8次医療計画の策定に向けた議論でも、在宅医療を中心とした薬剤師の関わりが取り上げられました。現状を把握するための指標例として、小児の訪問薬剤管理指導を実施している薬局数及び小児の訪問薬剤管理指導を受けた患者数や24時間対応可能な薬局数が掲げられています。
対象となる方々の多様な障害特性を踏まえると、医療と福祉の連携は非常に重要で、薬剤師が専門性を生かしてさらに関わりが求められていると考えておきたい領域です。
今後、トリプル改定の議論はさらに具体的に
今回はトリプル改定をめぐる議論の中間報告などを、簡単にまとめました。
診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬をまたがるテーマや、ここ10年来、各領域で進められた議論が、いよいよ形になっていくでしょう。
そして中医協では、具体的な議論に入る第2ラウンドが進んでいきます。本連載では引き続き、ポイントをしぼって情報をお伝えしていきます。
▼ 第1回の記事はこちら!2024年の調剤報酬改定がいつもと違う「2つの理由」とは?
▼ 第2回の記事はこちら!薬剤管理の一元管理と、真の意図は?
▼ 第3回の記事はこちら!調剤報酬改定の重要キーワード、出揃う
▼ 第4回の記事はこちら!内閣府資料から読み取る「調剤報酬改定 2024」の行方(規制改革推進会議と骨太の方針)
▼ 第5 回の記事はこちら!BCP(事業継続計画)の4つのポイント
▼ 第6回の記事はこちら!在宅はどうなる?
▼ 第7回の記事はこちら!改定時期後ろ倒しを図解
▼『調剤報酬改定2024まるわかりガイド』をご活用ください
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