24年度調剤報酬改定までに要対応。BCP(事業継続計画)の4つのポイント|医療経営士タカヒラの薬局動向PICK UP(5)
2024年の調剤報酬改定まであと約1年。でも実はすでに、来年の調剤報酬改定に向けての議論が関係省庁ではじまっています。その議論の背景を紐解くと、来年以降の薬局経営のヒントを「先取り」することができる……! |
解説する人:タカヒラ
医療経営士。MRで複数社を経験し、現在はKAKEHASHIでマーケティングを担当。猫と娘と関係省庁が出す資料(PDF)を夜な夜な読み込むのが好き。薬局経営者の方々の意思決定のお手伝いができるよう、日々精進しています。
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前回までは、同時改定意見交換会から今後のトリプル改定における方向性を見て参りました。今回は、来年の報酬改定までに対応が必要となる、BCP(事業継続計画)について解説します。
目次[非表示]
- 1.BCP(事業継続計画)って何?
- 2.薬局経営者が抑えるべき「BCPのポイント」は?
- 3.BCP運用を研究する、栁澤先生にポイントを聴いてみた
- 4.「1. 介護保険の請求を行っている薬局は、2024年4月までに作成する義務がある」って、どういうこと?
- 5.「2.BCP作成により、連携強化加算の取得、さらには今後地域支援体制加算の要件に入ることも想定される」って、どういうこと?
- 6.「3. BCP作成にあたっては、ハザードマップを見て、必要な項目を1つずつ整理していくことが必要である」ってどういうこと?
- 7.「4.作成したBCPで運用ができるかどうか、チェック(トレーニング)するのがよい」って、どういうこと?
BCP(事業継続計画)って何?
BCP(事業継続計画)とは、中小企業庁によると「企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のこと」とあります。
薬局経営者が抑えるべき「BCPのポイント」は?
ここで、薬局経営者や関係者の方々が抑えておくべきポイントを4つ紹介します。
- 介護保険の請求を行っている薬局は、2024年4月までに作成する義務がある
- BCP作成により、連携強化加算の取得、さらには今後地域支援体制加算の要件に入ることも想定される
- BCP作成にあたっては、ハザードマップを見て、必要な項目を1つずつ整理していくことが必要である
- 作成したBCPで運用ができるかどうか、チェック(トレーニング)するのがよい
BCP運用を研究する、栁澤先生にポイントを聴いてみた
さて、ここからは、BCP運用について研究を行っている姫路獨協大学の栁澤先生にポイントを伺ってみました。
栁澤 吉則 先生 |
※)本インタビューの内容は、一般社団法人 姫路薬剤師会災害公衆衛生部と栁澤先生の共同研究の内容であり、JR西日本あんしん財団の研究助成によるものです。
インタビュー中の栁澤先生、笑顔が眩しい
「1. 介護保険の請求を行っている薬局は、2024年4月までに作成する義務がある」って、どういうこと?
栁澤先生
こんにちは、栁澤です。
まずはじめに、介護保険を請求しているすべての事業所(みなし介護事業所)にご確認いただきたいことから説明しますね。現在、介護保険の請求をされているすべての事業所は、BCP作成の義務が課されており、2024年4月がその期限となっています。これは介護保険を請求している薬局のみなさまにも該当しますので、期限にご注意ください。
出典1:大阪府|保険医療機関等のみなし指定について
そして、このBCP作成が義務となっている背景についても説明します。下記の令和3年度介護報酬改定の内容をご覧ください。
ここでは、「1.感染症や災害への対応力強化」の義務化が規定されました。これは東日本大震災や倉敷の水害等をふまえ、高齢の方(特に介護認定を受けている方々)の被害も大きかったことから、その対策の必要性が議論され義務化となりました。そして、その作成期限は2024年4月。つまり、あと約半年(公開日時点から)での作成が必要となっています(※注釈)。
出典2:厚生労働省|令和3年度介護報酬改定の主な事項について
※注釈 【その1】介護保険法の解釈について
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また、災害に関する考え方として、もう少しその背景を深掘りします。
第7次、そして第8次医療計画においても、災害医療は重要事項として記載されています。下記引用部分は災害拠点病院と一般病院における内容となっていますが、BCPを考える際には、止水・浸水対策が重要なポイントと言えます。もともと田園だったようなところで発展した街は、とくに要注意といえそうです。
たとえば、姫路市は90%の薬局にリスクがあることがわかっており、対策を進めている状況があります。ぜひ、みなさまのご自宅と薬局のハザードマップを確認することをオススメします。
出典3:厚生労働省|第8次医療計画策定に向けた災害医療について(第6回救急 ・ 災害医療提供体制等に関するワーキンググループ)
③ 止水対策を含む浸水対策
- 浸水想定区域や津波災害警戒区域に所在する災害拠点病院は、風水害が生じた際の被災を軽減するため、止水板等の設置による止水対策や、自家発電機等の電気設備の高所移設、排水ポンプの設置等による浸水対策を講じる。
- 浸水想定区域や津波災害警戒区域に所在するその他の医療機関は、浸水対策を講じるように努める。
- 風水害も含め災害時に医療活動が真に機能するために、都道府県は地域防災会議や災害医療対策関連の協議会等に医療関係者の参画を促進する。
- 業務継続計画(BCP)の策定は、地域における医療機関の役割やライフライン復旧対策等、他機関(行政・消防・関連業者等)を含めた地域全体での連携・協力が必要であるため、地域防災計画等の他のマニュアルとの整合性をとる必要があり、医療機関が独自に策定するのは難しいことから、地域の防災状況や連携を研修内容に組み込んでいる厚生労働省実施のBCP策定研修事業等を活用し、実効性の高い業務継続計画(BCP)を策定する。
出典4:厚生労働省|救急・災害医療提供体制等に関するワーキンググループにおける意見のとりまとめ
「2.BCP作成により、連携強化加算の取得、さらには今後地域支援体制加算の要件に入ることも想定される」って、どういうこと?
昨今においては、調剤報酬の「連携強化加算」を取得されている薬局は決して多くはないと思いますが、このBCP作成を進めることでこの算定ができるようになります。以下がその算定のための事務連絡の内容です。
- 「連携強化加算」に係る施設基準等の具体的な取扱いについて 連携強化加算の施設基準等の具体的な取扱いについては、次に掲げる体制等が整備されていること等をいうものであること。
- (1)「災害や新興感染症の発生時等に、医薬品の供給や地域の衛生管理に係る対応等を行う体制を確保すること」について(第92の2の(1)のア)
- ① 災害や新興感染症の発生時等に、医薬品の提供施設として薬局機能を維持し、避難所・救護所等における医薬品の供給又は調剤所の設置に係る人員派遣等の協力等を行うこと。また、災害の発生時における薬局の体制や対応について手順書等を作成し、薬局内の職員に対して共有していること。
- ② 災害や新興感染症の発生時等において、医薬品の供給や地域の衛生管理に係る対応等を行うことについて、薬局内で研修を実施する等、必要な体制の整備が行われていること。
- (2) 都道府県等の行政機関、地域の医療機関若しくは薬局又は関係団体等と適切に連携するため、災害や新興感染症の発生時等における対応に係る地域の協議会又は研修等に積極的に参加するよう努めること」について(第92の2の(1)イ)災害や新興感染症の発生時等における対応に係る地域の協議会、研修又は訓練等に参加するよう計画を作成すること。また、協議会、研修又は訓練等には、年1回程度参加することが望ましい。なお、参加した場合には、必要に応じて地域の他の保険薬局等にその結果等を共有すること。
- (3)「災害や新興感染症の発生時等において対応可能な体制を確保していることについて、ホームページ等で広く周知していること」について(第92の2の(1)ウ) 災害や新興感染症の発生時等において対応可能な体制を確保していることについて、薬局内での掲示又は当該薬局のホームページ等において公表していること。また、自治体や関係団体等(都道府県薬剤師会又は地区薬剤師会等)のホームページ等においても、災害や新興感染症の発生時等に係る対応等が可能である旨、広く周知されていることが望ましい。
(4)「災害や新興感染症の発生時等に、都道府県等から医薬品の供給等について協力の要請があった場合には、地域の関係機関と連携し、必要な対応を行うこと」について(第92の2の(2)) 次に掲げる体制等のうち①を満たし、かつ、②又は③のいずれかを満たす場合に、基準を満たすものとする。
- ① 「新型コロナウイルス感染症・季節性インフルエンザ同時期流行下における新型コロナウイルスに係る抗原定性検査キットの販売対応の強化について」(令和4年12月27日医薬・生活衛生局総務課事務連絡)に対応した取り組みを実施していること。
- ② 公的な管理の下で配分される新型コロナウイルス感染症治療薬の対応薬局として都道府県等に指定され、公表されていること。
- ③ 一般流通が行われている新型コロナウイルス感染症の治療薬を自局で備蓄・調剤していること。 ただし、これまでにPCR等検査無料化事業に係る検査実施事業者として協力しており本加算の届出を行っていた保険薬局については、①のみを満たしている場合であっても、令和5年9月30日までの間に限り、本加算を算定できる
出典:厚生労働省|事務連絡 令和4年3月31日 厚生労働省保険局医療課
この点数は2点となっており、決して高くはありません。しかし、「義務化された内容に対応することで得られるもの」と捉えた場合は、積極的に対応することも「アリ」なのではないかと思います。
さらに、このBCPの作成や運用は今後、地域支援体制加算の要素にも入ってくるのではないかと想定されます。なぜかというと、今回のこの内容は介護側からの要請に基づいた動きだからです。
実際に過去の例をみても同様の動きがありました。たとえば、地域支援体制加算の中の「認定薬剤師が地域の多職種と連携する会議に参加」という要件があるのですが、介護側からの要望として議論が進み反映された内容となります。そう考えると、今回のBCP対応についても、来年の報酬改定において同じ流れが起こる可能性を想像しています。
「3. BCP作成にあたっては、ハザードマップを見て、必要な項目を1つずつ整理していくことが必要である」ってどういうこと?
こちらについては、姫路薬剤師会 災害公衆衛生部と実際に作成したハザードマップを例にとって解説しますね。
最初に、姫路市・神崎郡のハザードマップに基づく自然災害の予想をご覧ください。実に90%の薬局が洪水リスクがあることがわかり、他の災害リスクを踏まえると、ほとんどの施設で災害への準備が必要であることが分かります。
出典:栁澤先生より所有データより(日本薬学会143 年会ポスター発表)
さらに、このハザードマップに基づき、避難所が開設された際の応援可能な薬剤師数を算出しております。このデータに基づいて考えると、じつに半数以上の避難所において、薬剤師が応援にかけつけることができないことが分かります。
これは姫路市と神崎郡全体をみて初めて分かることであり、このような状況が想定される以上、域外からの応援要請も検討する必要があり、そのような計画も検討しております。
実際に、姫路薬剤師会の先生方は、倉敷の水害において域外からの応援にかけつけ、どのようなことが起こっているのかを経験されています。そのような観点からも自局のことだけでなく、地域のことへも目を向けて考えることが求められているでしょう。
さらに、姫路薬剤師会と私(栁澤先生)で進めておられるBCPの内容を詳しくみていきます。以下は実際の作成ファイルを作成する上で、必要な内容です。
- 薬局名
- 住所
- ハザードマップに基づくBCP発動条件
- 職員名と実際に薬局に来れるかどうか
- 避難方法
- 必要な物品
- 連絡手段の記載
- 仕入れ先との連携
- 在宅患者の情報
上記の内容に加え、関係各機関への連絡体制を記載し、連携できるようにしておくことも重要です。
姫路薬剤師会では、より負担が少なく作成できるような書式を整えて、提供をしています。このファイルの記載内容があれば、BCPとして十分機能できるように書式を整えており、さらに情報を入力していくことで、エクセルで自動的に反映できるような仕組みを作成しています。
「4.作成したBCPで運用ができるかどうか、チェック(トレーニング)するのがよい」って、どういうこと?
ここまで、BCP作成義務、その対応は調剤報酬で反映されること、そしてその作成方法についてご紹介しました。最後に、実際に作成されたBCPに基づき、訓練をすることの重要性をお伝えしたいと思います。
本来であれば関係する方々全員と実施することが望ましいのですが、実際には薬局の関係者中心での実施となるかと思います。しかし、それでも実施しておくことには大きな意義があります。
例えば、下記のようなことに備えておくべきでしょう。
「水害がおこり橋が通れなくなってしまった」ときに、誰がどうするかを話あっておく
「スタッフや患者に連絡がつかなくなってしまった」ときに、どう対応するのか、
物品が不足した時に医薬品卸さんとどうやり取りするのか?
作成されたBCPをもとに訓練を行い、万が一の備えをできる限り万全にすることが重要と言えます。最後に、BCP作成にあたって参考になる厚生労働省からの情報をお示しして、この話を終えたいと思います。(了)
BCP作成にあたって参考になる厚生労働省からの情報まとめ
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▼ 第1回の記事はこちら!2024年の調剤報酬改定がいつもと違う「2つの理由」とは?
▼ 第2回の記事はこちら!薬剤管理の一元管理と、真の意図は?
▼ 第3回の記事はこちら!調剤報酬改定の重要キーワード、出揃う|医療経営士タカヒラの薬局動向 PICK UP
▼ 第4回の記事はこちら!内閣府資料から読み取る「調剤報酬改定 2024」の行方(規制改革推進会議と骨太の方針)|医療経営士タカヒラの薬局動向 PICK UP
▼『調剤報酬改定2024まるわかりガイド』をご活用ください
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出典
出典1:大阪府|保険医療機関等のみなし指定について
https://www.pref.osaka.lg.jp/jigyoshido/shien/minashi.html
出典2:厚生労働省|令和3年度介護報酬改定の主な事項について
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000753776.pdf
出典3:厚生労働省|第8次医療計画策定に向けた災害医療について(第6回救急 ・ 災害医療提供体制等に関するワーキンググループ)
https://www.mhlw.go.jp/content/10802000/000962220.pdf
出典4:厚生労働省|救急・災害医療提供体制等に関するワーキンググループにおける意見のとりまとめ
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001004938.pdf
出典5:厚生労働省|事務連絡 令和4年3月 31 日 厚生労働省保険局医療課
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kinki/000235052.pdf