宅配ロッカー活用やオンライン服薬指導をすすめる薬局経営者が語る、取り組みの実情と未来
2023年の電子処方箋導入やオンライン資格確認の原則義務化など、ICTを有効活用し薬局運営の仕組みを変えることで患者さんとの関係を強くし、来局し続けていただける薬局づくりに取り組んでいる経営者がおられます。 そんな薬局業界をけん引する経営者お二人と、厚生労働省で薬局DXの取り組みを進める電子処方箋サービス推進室長に、「患者との距離を縮める薬局サービスへの挑戦と経営」について実例を交えて語っていただきました。 ※本レポートは2022年9月9日、株式会社カケハシが開催した処方薬の配送・受け渡し(ラストワンマイル)サービスをテーマとしたセミナー「ラストワンマイルDAY~知る・ふれる・つながる未来~」のパネルディスカッションを再構成した内容となり、登壇者の肩書などはセミナー当日の情報となります。本セミナーは、政府、東京都からの実施ガイドラインに従って運営されました。 |
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こんな方におすすめ
・オンライン服薬指導や処方薬の受け取りロッカーなど、新たな取り組みや最新設備導入に積極的な薬局の事例を知りたい方
・薬局経営において新しい取り組みを進める上で、経営者の考えをいかに浸透させていくか悩んでいる方
登壇者
松野 英子 氏(まつの・えいこ)たんぽぽ薬局株式会社 代表取締役社長
水田 怜 氏 (みずた・さとし) 株式会社新生堂薬局 代表取締役社長 兼CEO兼COO兼CHO
伊藤 建 氏(いとう・たける)厚生労働省 大臣官房企画官(医薬・生活衛生局併任)電子処方箋サービス推進室長
中尾 豊 株式会社カケハシ 代表取締役社長、東京薬科大学 薬学部 客員准教授<ファシリテーター>
目次[非表示]
- 1.こんな方におすすめ
- 2.登壇者
- 3.中部地方の患者の家族が、東京から同席。オンライン服薬指導で「自宅と薬局の距離がなくなっている」
- 4.駅ナカ調剤薬局は、なぜデジタルサイネージの機器でOTC医薬品を取り扱うのか
- 5.ラストワンマイルサービスを活用。しかし患者さんの反応は…
- 6.患者さんとつながるツールを100店舗以上で導入。経営者の思いや良いオペレーションをいかに浸透させたか
- 7.薬局経営者の薬局DXへの積極投資は「健全な危機感」から
- 8.これから薬局が進むべき方向性とボトルネックの解消
- 9.薬局経営者が行政の担当者に直接聞きたい、薬局DXの未来予想図
- 10.「患者に選ばれる薬局」に向けた取り組み
中尾:
現在、医療だけではなく、社会全体の消費者行動が変わってきていると感じています。顧客ニーズ、患者さんのニーズが多様化していく中で、先進的に取り組む企業や行政の方々と共に、現状の課題や薬局業界の皆さんがどのように進んでいけばいいか、深くディスカッションしていきたいです。
テーマは3つございます。
(1)オンライン服薬指導やラストワンマイル・薬局DXに向けた取り組み
(2)これから薬局が進むべき方向とボトルネックの解消
(3)患者に選ばれる薬局に向けた取り組み
中部地方の患者の家族が、東京から同席。オンライン服薬指導で「自宅と薬局の距離がなくなっている」
中尾:
まず(1)のオンライン服薬指導やラストワンマイル・薬局DXに向けた取り組みについて、たんぽぽ薬局さんと新生堂薬局さんで、今、何に取り組み、どんなことを課題として感じているかお話しいただきます。
松野氏:
たんぽぽ薬局株式会社の松野と申します。たんぽぽ薬局は、岐阜県岐阜市に本社を構えておりまして、東海地域を中心に四国、関西、北陸に現在147店舗を展開しております。患者様には心を込めて対応させていただくことで、地域で一番のかかりつけ薬局になるよう取り組んでいます。
特徴は、地域の基幹病院、大病院の門前近隣に出店している点です。半数以上が200床以上の大きな病院で、がん診療連携拠点病院もあり、抗がん剤の取り扱い等も多く、薬剤師の質の向上にも務めています。特に服薬指導後の患者様のフォローは、8月にやっと3800件程度まで来ております。
今日の題名にあるラストワンマイルサービスは、3つ取り組んでいます。
講演資料より抜粋
1つ目は、SPECER社のロッカーを置いております。温度管理ができ、24時間対応できるので、当初はサラリーマンのような忙しい方にご利用いただけるかと思っていたのですが、ご家族で共有し、奥さんが取りに来られる使い方をしてくださっていることもあります。
2つ目は岐阜名鉄タクシーと協業し、お薬の説明を先にしてお薬自体は即日タクシーのドライバーさんが患者さんに配達する、ということもやっております。
あと、3つ目は先ほど講演があった『ARUU』で、ハーティストさんが在宅施設でのセッティングやホチキスとめなど、あとはポスティングや薬局間の配送等もやっていただいています。
ICT化の取り組みでは、患者さんから求められる電子お薬手帳、キャッシュレス、オンライン資格確認も含め、なるべく早く全店導入を進めています。また、法改正があるインボイスへの対応、生産性の向上や安全対策のため、よりよい調剤ロボットや過誤防止システムを使うか、さまざま取り組みや選定も随時行っています。
また、オンライン服薬指導を通じて、自宅と薬局の距離がなくなっていると感じています。岐阜県の山間部、高山市の患者様のご家族が東京で服薬指導を受けたり、滋賀県の病院に大阪府の方が通っていて、滋賀県の薬局から大阪府内で服薬指導を受けたりという例があります。
講演資料より抜粋
今一番力を入れているのが、オリジナルのLINEのミニアプリを作り、便利で使いやすいオンラインサービスに向けての取り組みの強化です。処方せんの送信、電子お薬手帳、オンライン服薬指導、オンライン決済、配送、患者様のフォローまで一貫してできれば、患者さんにとっての利便性や安心につながっていくと思っています。8月1日からサービスを開始し、今日現在では1万3000人を超える登録があります。
高齢者はスマートフォンが使えないという先入観を持っていましたが、実際は50代以上の方の登録が多いです。まずは患者様が(ICTを活用したサービスが)使いやすい、と理解していただきたいと思っています。
駅ナカ調剤薬局は、なぜデジタルサイネージの機器でOTC医薬品を取り扱うのか
水田氏:
福岡県から参りました、新生堂薬局の水田です。弊社ではDXがつくる地域密着型ドラッグストア、健康台帳がつくる新業態ヘルスケアステーションに取り組んでいます。
弊社は約250億の売上のうち、ドラッグストアが150億、調剤が100億ぐらいとなっております。ドラッグストアを基幹とし、第2の基幹として調剤をやる中、「相談できる薬屋に原点回帰しよう」と考えています。多くのドラッグストアの創業者は恐らく夫婦で調剤薬局を始め、いつしかドラッグストアとなり、薬屋から食料品店や便利屋のような形になっていると思っております。そこから、改めて相談できる薬屋に戻る。それがDXがつくる地域密着型ドラッグストアだと思っております。
店舗は、福岡県と熊本県をメーンに調剤薬局89店舗、ドラッグストア53店舗。そのうち25店舗は併設店とのことで、福岡、熊本県を中心にやっております。
また、ドラッグストア・調剤薬局だけでなく、お客さまの健康に携わる事業ということで訪問看護ステーションやフィットネスクラブも経営しています。
弊社は「地域一番のヘルスケアステーションにする」というビジョンを掲げています。それを実現するために優れたテクノロジーと温もりあるコミュニケーションを融合させるということを経営戦略として掲げております。「優れたテクノロジー」はDXのことで、そこに薬局が対人業務の「温もりあるコミュニケーション」を融合させるのが当社の考え方です。弊社ではDXとは、データとAIテクノロジーとデジタルを活用し、従業員がもっと働きやすい環境をつくる、お客様患者様がもっと利用しやすい環境をつくる、そのためにDXという手段を用いていこうという考え方をしています。
その結果、薬局への滞在時間は変わらないまま、最新機器を使えば使うほど患者様の投薬の時間を使うことができる。接客や説明の時間を増やし、温もりあるコミュニケーションで投薬をすることで、信頼できる店舗になると考えています。
講演資料より抜粋
弊社はドラッグストアと調剤薬局の両方を運営する中、表現が間違ってたら申し訳ございませんが、ビジネスの中では「ドラッグストアが調剤薬局の処方箋を奪う」ということをやっていますが、その一方で、調剤薬局がOTC医薬品の市場を奪うということがあってもいいのではないかと思っています。
事例としては、博多駅の地下鉄筑紫口改札前(福岡市)にベクトン・ディッキンソン社のソリューションを採用した店舗を作っております。門前の医療機関はない、完全「面」の調剤単独店で、サラリーマンの方、現役世代の方が多い場所でお薬受取ロッカーを使っております。処方箋ポストに処方箋を入れ、オンライン服薬指導を受け、ロッカーで薬を受け取っていただきます。
ここでは、15坪という調剤薬局でOTC医薬品500アイテムを採用することで、ドラッグストア1店舗の医薬品の売上とほぼ同じだけの売上をつくることができております。患者様にまだ聞けてはいませんが、登録販売者ではなく、薬剤師が一般用医薬品の服薬指導を行う説明を行うからではないかと思っています。調剤薬局で一般用医薬品を販売するという仕組みを、DXを使って実現させているということです。
講演資料より抜粋
調剤併設のドラッグストアではSPECER社のロッカーを設置しています。ドラッグストアの営業は23時までですが、調剤薬局の営業は途中で終わるため、日曜や夜間の調剤薬局の営業時間外に受け取れます。
また、「データを用いる」ことを大事にしております。患者様のデータ、また、健康台帳のデータ、そういったありとあらゆるデータをデータマネジメントプラットフォーム(DMP)の中に入れ、AIでクラスタリングして分析することで、患者様に適切な投薬後フォローなどを行なう仕組みです。
ドラックストアの年間400万人のお客様、調剤薬局の年間100万枚の処方箋。それらのデータを、一人の患者様がどのような形で利用されているのか(という視点で)分析することで適切な受診勧奨を行ったり、利用を中断されている方に対して、改めて服薬を継続していただくようなアドバイスをしたりする、という考え方です。
未来に向けた取り組みとしては、薬局・ドラッグストアとして患者様の顧客データを用いるのはもちろん、今後、行政のデータや医療機関との診療データを連携させることで、お客様・患者様のデータを活用したセルフメディケーションの推進、疾患の早期発見、早期治療開始、治療継続、重症化予防プログラムを開発していきたいと考えております。
最新のラストワンマイルサービスの情報を1冊にまとめました。ぜひダウンロードしてご一読ください。
ラストワンマイルサービスを活用。しかし患者さんの反応は…
中尾:
両社ともさまざまなサービスを取り入れていますね。ベンダー選定のポイントや、実際にラストワンマイルサービスを利用した時の患者さんの反応や変化を聞かせてください。
松野氏:
ベンダーの選定ではロッカーの場合、使い勝手の部分を重要視して見定めました。温度管理、鍵がご家族共有で使えるか、スマートフォン決済ができるかといった点です。置き場所については、地域性を踏まえ、どういう方に使っていただきたいか、ロッカーが生かされるかを悩みながら選定しました。
水田氏:
選定という面では、現時点は複数の業者から提案いただいた「テスト段階」と思っております。実はまだまだ利用件数が少ないんです。
松野氏:
こちらもエリアの影響もあるかもしれませんが、少ないです。
水田氏:
そんな中でも、今後ロッカーは使われていくだろうと思っています。ドラッグストア53店舗で、大手通販会社のブルーのロッカーを設置したところ、月間1万件利用されています。これだけ多くの方がロッカーを使うのであれば、より規制緩和が進めばロッカーが使われるだろうと思っています。まずロッカーを使い、松野さんが挙げたような患者様の利便性などを判断しながら、選定に入っていくと考えてます。
中尾:
松野さんに深掘りして伺いたいのですが、いろいろなラストワンマイルサービスを活用する中、患者さんの反応はいかがでしょうか。
松野氏:
やはり現状維持を望まれる患者さんが多いという印象はあります。「何時に配送されるのか」「なかなか待てない」など、患者さん自身がうまく使うためにはどうしたらいいか、私たちが提案していく段階にあると感じてます。
中尾:
便利なように聞こえつつ、「受け取るタイミングを選定しなければならない」という顧客心理も発生するということですね。顧客側、患者さん側が成功体験を得られると、便利だなとリピーターになる可能性もあると思いますし、結果的に治療継続といった話にもなると思います。業界全体として、患者さんにこれらの体験をまずしてもらう、そういうフェーズなのかと感じました。
患者さんとつながるツールを100店舗以上で導入。経営者の思いや良いオペレーションをいかに浸透させたか
中尾:
松野さんにご紹介いただいたLINEのミニアプリについて、100店舗以上を経営されている中、やりたいという経営者の思いや実際のオペレーションを、現場の先生方やスタッフの方にどのように浸透させていったのでしょうか。
松野氏:
まずどのツールを使うのかも含めてプロジェクトチームが主導権を持って選定し、最終的にLINEのミニアプリになりました。「これでいくんだ」と自分たちで納得をして決めました。その後、店舗の隅々まで啓蒙していくとき、もうこれは社運をかけて、未来の薬局の患者さんの利便性を良くするためにも、安心安全のためにも必要なものだという思いで、ビデオメッセージを作りました。私も冒頭で少しだけお話をし、どういう目的でやるのか、どうやって登録を促すのかという内容の数分間のビデオを作り上げ、「全店で必ず見てください」と配信しました。
登録については、粗品の配布もやっていましたが、それだけではやはり患者さんの気持ちを動かすのも、社員がその気になるのもなかなか難しかったです。そこで生かしたのは、各店舗の情報です。1店舗ずつ登録状況が見えるので、なかなか進んでいない店舗にプロジェクトチームの者が電話をして状況や困りごとを聞いてフォローしたり、登録が進んでいる店舗の情報を社内で共有したりしています。
どこの薬局も高齢の患者さんが多いと思いますし、弊社でも60代、70代の方が一番多いです。スマートフォンが使い慣れない人もおりますが、まずはLINEの登録をしていただき、「使い方はまた後から説明できますよ」とお伝えすると、「じゃあLINEの登録だけだったらできるね」と(段階を踏んで)やっています。
中尾:
全社員向けのビデオで「社運を賭けてやるんだ」という気概を伝えること、データを見える化して支援することが非常に重要ということですね。
薬局経営者の薬局DXへの積極投資は「健全な危機感」から
中尾:
水田さんは、マーケティング視点を持ちながら幅広く先行投資もされている印象を持ちました。新しい取り組みに対して積極的に投資している理由や背景を聞かせていただけますか。
水田氏:
社内で言っているのは「健全な危機感」ですね。ドラッグストアや調剤薬局として、どうやって地域の中で選ばれていくのか。同じ品ぞろえのドラッグストア、同じ取り扱いの医薬品という中で、どのようにサービスの質を上げていくのかを考えた際、弊社においては、サービスに対して投資をしようと考えています。
実は今月からLINEを使った取り組みを始めたところですが、松野さんの今の話を聞いて、励みになりました。以前、アプリのダウンロードが必要なサービスもやっていましたが、「医療事務と患者さんで約1時間かけてダウンロードした」という事例もありました。LINEだったらみんな使っているだろうと考えましたし、いろいろ試しながら患者様の患者さんを見て「健全な危機感」の中でさまざまな投資をしていきます。
中尾:
先進的な店舗や健康台帳のお話もありましたが、新たな取り組みをした時、患者さんにどんな変化がありましたか。
水田氏:
言葉を選ばずに言うと、新しいことをやっても、患者さんの反応はないです。新しいことだから、何か不安で、どうしていいか分からない、何か触って間違ったら恥ずかしい、だから利用していただけない。
ただ、薬剤師やドラッグストアの登録販売者たちがきちっと親身になって、しっかりと操作方法ややり方をお伝えすると、「こんなに便利なのだからまた今度使ってみよう」と感じていただけます。
例えば筑紫口改札の前では、OTC医薬品をデジタルサイネージで選べますが、最初は誰も買ってくれませんでした。でも薬剤師がその前に立ち、しっかりとお薬のことだけではなくサービスのカウンセリングもすることで、リピーターになったり、反応がどんどん良くなったりすると思っています。
これから薬局が進むべき方向性とボトルネックの解消
中尾:
では、テーマの2つ目はこれからの薬局や薬剤師が進むべき方向性や課題について、DXもからめてディスカッションしていきましょう。
伊藤さん、「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」での議論や方向性、何が期待されているかについてお話しいただけますか。
伊藤:
薬局薬剤師のあり方ワーキンググループは今年7月にとりまとめを公表しました。対物から対人業務にしっかりシフトをしていくことが重要で、近年のデジタル化のトレンドを捉え、技術を活用しながら対人業務の充実を図っていくべきであるという点が挙げられています。
私が個人的に思うところでもありますが、もはや「DX」と「それ以外」という分け方や関係性ではないと思っています。DXを前提として、皆様の日々取り組んでおられる業務をどう変革をしていくのか。それから、顧客体験をどうアップデートしていくのか、ここが問われていると思っています。まず諸外国を見ると、医療DXの流れはコロナ以前から非常に進んでいると感じます。アマゾンしかり「大手」と言われるところが、海外では取り組みを始めています。
薬局経営者が行政の担当者に直接聞きたい、薬局DXの未来予想図
中尾:
水田さんと松野さんは、「行政はどう考えてるのだろうか」といった視点でご質問ありますか。
水田氏:
今後考えている、一般用医薬品のデータ収集について伺いたいです。
一般用医薬品のデータを薬歴のような形で集め始めましたが、一般用医薬品のデータと医療用医薬品のデータが一元管理されていないので、「病院の薬を飲んでます」と言われても、どの薬を飲んでいるのか分からないのです。調剤薬局で服薬指導する時に「一般用医薬品を飲んでます」と言われてもよく分からない。
一元管理ができるようになれば、セルフメディケーションの推進や、色々なデータの中から潜在的な患者さんを発見して早期発見、早期治療開始が期待できると思っています。
伊藤氏:
今、オンライン資格確認を「ツール」として、色んな医療・健康情報を共有していく流れがあります。電子処方箋が運用開始されることで、処方薬はマイナポータル経由で共有されますが、今いただいた一般用の医薬品についてもしっかり連携をしていきたいと思っております。
具体的には電子版お薬手帳のアプリとマイナポータルをAPI連携させ、処方された医薬品と一般用の医薬品、これをトータルで情報管理をして、その患者さんが一体何を服用されているのかといったような全体像を見せていく形にしたいと思っています。今年度中にはガイドラインという形でお示しをしていきたいと思っています。
水田氏:
そうなると、調剤薬局の薬剤師たちも、一般用医薬品のデータを用いながら服薬指導することができるようになり、より質の高い医療が提供できると思います。
中尾:
松野さんはいかがでしょうか。
松野氏:
電子処方箋について、国はいつまでに進め、ゴールはどこを目指しているかということを教えていただけないでしょうか。薬局側としては電子処方箋が進めば患者さんのためにもなり大変期待するところはありますが、患者さんの不安も大きいと思います。
伊藤氏:
政府としての方針は来年の1月に運用開始し、2025年3月までに、オンライン資格確認導入施設のうちのおおむね全ての医療機関、薬局で電子処方箋を導入するという計画です。
ですので、この2年間のうちにしっかり普及拡大を進めていきたいです。おっしゃる通り、患者自身に仕組みが理解され「重要だ」「便利だ」と感じてもらえることが何より大事だと思ってます。
今から国民向けの広報用に動画やリーフレット、パンフレットも用意し、周知広報をやっていきたいと思っています。ここは皆様、薬局のお力もお借りしながら、患者さんに制度の開始や利便性をお伝えいただけると非常にありがたいと思っています。
中尾:
オンライン参加者からの質問が来ています。「薬局薬剤師が外でも働けるようにする話が進んでいるとのことですが、薬局として準備しておくべきことはありますでしょうか」という質問です。
伊藤氏:
今回の省令改正はパブリックコメントで案は既にお示ししていますが、一定の条件下であれば、薬剤師さんが例えばご自宅で服薬指導をオンラインでやるということが可能になります。薬局側で準備が必要なのは、例えばそのご自宅にいる時、患者さんとのやりとりの中で、患者さんが何を飲まれているのかといった過去の情報を遠隔で見られるような準備は、薬局自身にご用意いただきたいと思っています。
「患者に選ばれる薬局」に向けた取り組み
中尾:
最後のテーマは、患者さんに選ばれる薬局に向けた取り組みについて、薬局DXや今回のテーマであるラストワンマイルをどう成功させていくか。その秘訣についてメッセージをいただきたいです。
松野氏:
たくさんのシステムや設備から選定する際は、患者さん側の視点と、使う現場の従業員たちの視点が必要になってきます。患者さんが何を望んでいるのかというニーズは大切ですが、私たちは今、DXによって誰もわからないところに向かっており、この先は患者さん自身も気づかないニーズがきっと出てくるでしょう。
例えば、「そんな便利なことができたのか」「こんなふうに薬をチェックしてもらえるようになったのね」という場面があれば、それは患者さん自身も気づかないニーズだと思うんですよね。そこを私たち、医療者側が発掘していくことが大切です。
また、個々の薬局だけではなく、他の会社ともつながりながら、地域における薬局の役割を患者さんや地域の方にご理解いただく、そういうブランディングも大切かと感じております。
水田氏:
薬局としてビジネスを成功させる秘訣は、結局は患者様から選ばれること、そして選ばれ続けることだと思ってます。処方箋を送る、服薬指導、決済や受け取りの仕組み。そういった仕組みにはDXが活用されますが、そこでいかに患者様との対人業務におけるコミュニケーションの質を高めていくかが、DXやラストワンマイルを成功させる本質、秘訣かと思っています。
伊藤氏:
お二人のお話を伺い、健全な経営の危機感を持ち、選ばれる薬局としてDXを進めているということが印象的でした。
国として医療DXを進めるという方針があっても、国や厚生労働省だけでは全く進まない世界であります。これはまさに皆様一人一人とタッグを組んでやっていかないとなかなか変わりません。
今回お話いただいた事例を受けて、まずは挑戦してみる、やってみるということが大事だと思っています。DXやデジタルの世界では「アジャイル」という言葉があります。まずやってみて、うまくいかなかったら変えたりやめたりする。DXはなかなか前例がない世界でありますし、患者から見ても新しい話であり、やってみないことにはわからないということが非常に多いのではないでしょうか。
ですから、まずはやってみていただく。そういった挑戦をする事業者や経営者を、国がしっかりと支援していくことが重要だと思います。(了)
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