【2021年 改正薬機法】薬局における法令遵守体制の整備について
本記事では、2021年8月の改正薬機法施行により義務付けられた、薬局における法令順守の体制整備「ガバナンス強化」について薬局経営者が押さえておくべきポイントを解説します。 ※詳細等は必ずガイドラインでご確認ください。 |
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目次[非表示]
- 1.《改正の背景》法令遵守体制の整備に向けた薬機法上の課題
- 2.薬局における法令遵守体制の整備の概要
- 2.1.本改正で新規に法律で定められた事項
- 2.2.ポイント解説
- 2.2.1.薬事に関する業務に責任を有する役員「責任役員」の明確化
- 2.2.2.管理者の選任と役割の明確化
- 3.薬局経営者・開設者が法令遵守のために押さえておくポイント
- 3.0.1.ステップ1.行動規範となるルールの策定
- 3.0.2.ステップ 2.周知徹底
- 3.0.3.ステップ 3.業務記録
- 3.0.4.ステップ 4.モニタリング
- 4.ガバナンス強化の必要性
- 5.ガバナンス強化など、経営のお悩みはMusubiスタッフにご相談ください!
- 6.【補足】法令遵守で新規に定められた事項まとめ
《改正の背景》法令遵守体制の整備に向けた薬機法上の課題
ガイドラインには、近年の薬局における違反事例では薬局開設者等の役員の法令遵守意識の欠如や、法令遵守に関する体制が構築されていないことが原因と考えられるものが見受けられるとあります。 では、どのような法令違反があったのか事例を元に確認してみてみましょう
薬機法関連の法令違反
類型 |
具体的事例 |
類型1 違法状態にあることを役員が認識しながら、その改善を怠り、漫然と違法行為を継続する類型 |
・役員が認識しながら、薬剤師でない者に販売又は授与の目的で調剤させていた事例 ・必要な薬剤師数が不足していることを役員が認識しながら、薬局の営業を継続していた事例 ・役員が認識しながら、医師等から処方箋の交付を受けていない者に対し、正当な理由なく処方箋医薬品を販売していた事例 |
類型2 適切な業務運営体制や管理・監督体制が構築されていないことにより、違法行為を防止、発見又は改善できない類型 |
・ 医薬品の発注、仕入れ、納品、保管等の管理を適切に行う体制が構築されていなかったために、偽造医薬品を調剤し、患者に交付した事例 ・ 適切な業務運営体制が構築されていなかったために、薬局の管理者が、他の薬局において業務を行っていた事例 ・ 処方箋により調剤した薬局において、調剤済みとなった処方箋を当該薬局で保存せず、さらには調剤録への記入をせずに、別の薬局で調剤したように見せかけていた事例(役員が認識、又は直接指示していた事例では類型1に分類) |
表1:(厚生労働省 「薬局開設者及び医薬品の販売業者の法令遵守に関するガイドライン」別添1「法令違反事例」 資料より)
この他にも、日本薬剤師会が出した手引きでは、ガイドラインで示されている類型以外にも薬機法関連の法令違反として、下記のようなものが示されています。
調剤録(薬歴)への未記載(服薬指導の要点等、以前は調剤録への記載が求められていなかった事項も、改正薬機法で調剤録に記載し保管管理することが求められるようになりました。)や改ざんなどが考えられます。 |
これらの薬機法関連の違反発生を防止する上での課題として、薬機法における薬局等の業務に関する薬局開設者等と管理者の双方の責務の明確化やその責務を果たし、推進するための措置が十分ではなかったことが挙げられており、本改正によってその責任が明確化されることとなりました。
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薬局における法令遵守体制の整備の概要
図1:薬局における法令遵守体制の整備(厚生労働省医薬・生活衛生局資料より)
本改正で新規に法律で定められた事項
新規に法律で定められた事項はガイドラインを確認すると、大きく分けて3つにまとめられています。1つ目は「薬局開設者等の法令遵守体制」として、法令遵守整備についての考え方や体制の整備、管理者が有する権限の明確化、薬局開設者等の業務の適正な遂行に必要な措置があげられています。2つ目に「薬事に関する業務に責任を有する役員」=責任役員 が薬機法上に位置づけられ、その責任が明確化されました。3つ目は薬局開設者等が「薬局等の管理を統括する責任者である管理者」を選任する上での判断基準や管理者による意見申述義務、薬局開設者等による管理者の意見尊重及び措置義務があります。
各事項の主な遵守事項は、記事最後にまとめましたのでご参照ください。
ポイント解説
ここで、「責任役員」の明確化と「管理者」について詳細を確認してみたいと思います。
薬事に関する業務に責任を有する役員「責任役員」の明確化
法令遵守に責任がある者を明確にするために、薬事に関する業務に責任を有する役員(責任役員)が法律上に位置付けられました。責任役員の定義・範囲は以下の通りですが、株式会社では、執行役員は責任役員に該当しないなど留意すべき事項を確認しましょう。
責任役員の定義・範囲について
定義 |
薬事に関する法令を遵守して行わなければならない業務が含まれる役員が「責任役員」に該当する。 新たに指名又は選任を要する性質のものではなく、各役員が分掌する業務の範囲によりその該当性が決まるものである。 |
範囲 |
○ 株式会社(特例有限会社を含む。)会社を代表する取締役及び薬事に関する法令に関 する業務を担当する取締役 ※取締役ではない執行役員は責任役員に該当しない ※指名委員会等設置会社については、会社を代表する執行役及び薬事に関する法令に関 する業務を担当する執行役 ○ 持分会社:会社を代表する社員及び薬事に関する法令に関する業務を担当する社員 ○ その他の法人:上記に準ずる者 |
表2:(厚生労働省 「薬事に関する業務に責任を有する役員」の定義等について 資料より)
管理者の選任と役割の明確化
ガイドラインでは、「必要な能力及び経験を有する者」として、実務経験が5年以上の認定薬剤師を推奨しています。5年以下の薬剤師を選任した場合は、「必要な能力および経験」をどう判断し、選任したかを説明ができるようにしておくべきでしょう。また、管理者による意見申述義務では、管理者は薬局開設者等に対して必要に応じて意見を書面により述べなければいけません。これは管理者自身が認識した問題点や必要な改善点のための措置を薬局開設者等に対して報告することが求められていることを認識する必要があります。薬局開設者等による管理者の意見尊重及び措置義務では、管理者の意見を尊重し措置を講じる必要があるかどうかを検討し、その内容を適切に記録しなくてはいけません。措置を講じない場合においてもその理由を残す必要があります。
薬局経営者・開設者が法令遵守のために押さえておくポイント
法令遵守の体制整備を進めていく上での行動ポイントを整理してみました。一部、ガイドラインの内容を抜粋して解説します。
1. 行動規範となるルールの策定 2. 周知徹底 3. 業務記録 4. モニタリング |
ステップ1.行動規範となるルールの策定
適正な業務を遂行するにあたって、内部統制の一環として薬局内のルール(遵守すべき規範)の策定が必要となります。これは、法令遵守の観点から、また企業としての社内規定において明確にしておく必要があります。
ステップ 2.周知徹底
(法令遵守を最優先している)経営者・役員の考えを、定期的に社内に向け周知する必要があります。
ステップ 3.業務記録
導入しているシステムの仕様がどうなっているか。また、今後検討するシステム選定において記録される情報の真正性の重要性を考慮する必要があると考えられます。
■記録データの管理と保存 (1)薬局開設者等の業務の遂行が法令に適合することを確保するための体制 ③ 業務記録の作成、管理及び保存 「事後的に記録の改変等ができないシステムとする等、適切な情報セキュリティ対策を行うことも重要である。」 |
ステップ 4.モニタリング
適切な記録だけではなく、棚卸資産の把握が可能な状態であるかも経営において重要な観点となります。管理コストやリスクを低くするために、全店舗のオペレーションは統一できているか店舗毎の業務状況をエリアマネージャーや責任役員はいつも確認することができるかなど、統一されたシステムや店舗に行かずともわかる仕組みで店舗状況の可視化が重要となってきます。また、問題があったときにしっかり説明ができる状態であることも重要です。
■オペレーションの統一や可視化された店舗状況の実現
(1)薬局開設者等が2以上の許可を受けている場合の必要な措置
「同一法人において、複数の薬局等の許可を受けている場合も、その全ての薬局等 において法令遵守体制が確保され、その状況を確認できる必要がある。」
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■医薬品在庫の現状把握 (2)医薬品の保管、販売その他医薬品の管理に関する業務、医薬品の購入等に関する記録が適切に行われるための必要な措置 ・ 取引相手の名称、所在地、連絡先を確認するために提示を受けた資料を帳簿 に記録すること ・ 追跡可能性の確保の観点から、同一の薬局開設者等の事業所間での医薬品の販売等に係る事業所ごとの記録 ・保存を行うこと ・ 製造販売業者により販売包装単位に施された封を開けた状態での医薬品の販売等について、当該医薬品を販売等する場合、開封した者の名称、所在地等を表示すること |
ガイドラインでは、「法令遵守体制を構築するための取組みを検討し、実施するに当たっての指針を示したものであり、具体的な取組みについては、薬局開設者等の業態や規模に応じて実施することが想定される。」と、あるように薬局ごとの状況に応じた法令遵守体制を整備、構築していくべきでというメッセージが読み取れます。そのため、今後の薬局経営においてはシステムを統一し、組織ガバナンスを強化していくことを求められていると考えられます。
ガバナンス強化の必要性
企業におけるガバナンスを強化するためには、何をすべきでしょうか?まず、重要な視点として「経営者・役員からの考え」が浸透しているか があげられます。ガイドラインでは、以下の記載があります。
法令遵守体制の基礎となるのは、薬局開設者等の全ての役職員に法令遵守を最優先して業務を行うという意識が根付いていることであり、こうした意識を浸透させるた めには、責任役員が、あらゆる機会をとらえて、法令遵守を最優先した経営を行うというメッセージを発信するとともに、自ら法令遵守を徹底する姿勢を示すことが重要である。 |
ガバナンス強化のためには、まずは経営者、役員の法令遵守を優先した業務遂行の意識が根付いているかが基礎となり、その上で法令遵守(コンプライアンス)が保たれる体制を整備、構築していく必要があります。体制が不十分な場合、ガバナンスが不足し、コンプライアンス違反が発生するといったことが起こりやすくなります。
一般的に企業規模を問わずガバナンスは必要であり、先に述べたように強化をする上で経営者や役員の考え方が現場に浸透していることが重要とされています。いわゆる企業風土といった企業独自の環境に根付く従業員の思考・行動が良い状態であるかは、経営者や役員からの日々のメッセージが大きく影響します。その上で、行動基準となるルールや、業務手順を整備、・明文化し着実に実行できる体制を作ることが、法令遵守体制強化のファーストステップとなるでしょう。
ガバナンスを強化することは、企業の社会的な価値や信頼、評価につながることで企業価値を向上させ、財務状態の安定化や企業の中長期的な発展や競争力を高められることが期待されます。改正の背景にある「違反事例」を起こさないためにも重要な取り組みだと言えるでしょう。
ガバナンス強化など、経営のお悩みはMusubiスタッフにご相談ください!
ここまで薬機法改正で新たに求められるガバナンス強化について、対策ポイントを解説してきました。
実際に対策したいと思っても「何から着手すべき?」「やりたいけど日常業務で手がまわらない」など、さまざまなケースがあるかと思います。弊社では薬局経営者様向けの個別相談会を実施しています。薬局の事情に寄り添いながら、データや導入事例を用いて、個別の課題解決のための情報提供をしていきます。ガバナンス強化以外の課題でもご相談を承っておりますので、ぜひお気軽にお声がけください。
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薬局経営者のみなさまと二人三脚で本質的な課題と真摯に向き合い、患者さんから選ばれつづける薬局の「最初の一歩」へご案内させていただきます。
【補足】法令遵守で新規に定められた事項まとめ
薬局開設者等が遵守すべき主な内容は以下となります。
新規に法律で定められる事項 |
主な遵守事項 |
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薬局開設者等の法令遵守体制 |
●薬局開設者等の業務の遂行が法令に適合することを確保するための体制の整備 ・役職員が遵守すべき規範の策定 ・役職員に対する教育訓練及び評価 ・業務記録の作成、管理及び保存 ・役職員の業務の監督に係る体制 |
●法令遵守の重要性を企業行動規範等に明確に盛り込むことや、 これを従業者に対して継続的に発信すること等。 ●役員の権限及び分掌する業務を明らかにすること。 同一企業内で複数店舗の薬局開設者を務めている場合の必要な措置として、開設者や役員を補佐する者、いわゆるエリアマネジャーの行う業務を明らかにすることや、エリアマネジャーが管理者から必要な情報を収集して、薬局開設者に速やかに報告すること、開設者からの指示を管理薬剤師に伝達することなど。 | |
薬事に関する業務に責任を有する役員 |
薬事に関する業務に責任を有する役員の明確化 ●法令遵守について責任を負う立場にあり、法令遵守体制の構築及び運用は責任役員の責務となる。 |
「薬局等の管理を統括する責任者である管理者」 |
必要な能力及び 経験を有する者を管理者として選任 ●薬局開設者等の根幹である業務を管理する責任者である管理者を選任することを義務付けた。 ●管理者は薬局における実務経験が少なくとも5年あり、中立的かつ公共性のある団体(公益社団法人薬剤師認定制度認証機構等)により認証を受けた制度又はそれらと同等の制度に基づいて認定された薬剤師であることが重要 |
(薬局管理者からの)意見に対する措置義務
●管理者の意見を尊重し、法令遵守のために措置を講じる必要があるか検討し、措置を講じる。また、措置の内容を記録した上で適切に保存する。措置を講じない場合は、措置を講じない旨及びその理由を記録した上で適切に保存する。
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(薬局管理者からの)意見申述と書面化の義務
●管理者は、保健衛生上支障を生ずるおそれがないように薬局等の業務を行うために必要があるときは、薬局開設者等に対し、意見を書面により述べなければならない。
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表3:(厚生労働省 「薬局開設者及び医薬品の販売業者の法令遵守に関するガイドライン」 資料より)
参考資料
(厚生労働省医薬・生活衛生局)「薬局開設者及び医薬品の販売業者の法令遵守に関するガイドライン」 について https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000812083.pdf
(厚生労働省医薬・生活衛生局)「薬事に関する業務に責任を有する役員」の定義等について
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000731133.pdf
(厚生労働省医薬・生活衛生局)薬局における法令遵守体制の整備
https://www.mhlw.go.jp/content/10200000/000725006.pdf