【実践例つき】薬局開業「場所」を選ぶ基準とは 立地で後悔しない商圏分析のポイント
薬局の開業に向けて、数ある準備の中でも多くの方が悩まれるのが「開業場所」ではないでしょうか。最近ではスマートフォンアプリで簡単に分析できるようになりましたが、人口動態、競合環境、交通動線などの情報をもとに候補地を比較検討し、優劣をつけることは容易ではありません。本記事では、実践を通して薬局の開業候補地を調査・分析する方法をご紹介します。これから薬局の開業・新店を検討されている方は、ぜひご覧ください。
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薬局開業において場所が重要な理由
商圏の人口や店舗までの動線といった売上を左右する要素は、立地に影響を受けるため、薬局をどこで開業するかという決断はとても重要な選択です。
これまでは点分業(門前・門内)で医療機関の近くで開業することが薬局成功の鍵とされてきたため、「開業場所を選ぶ」ということの重要性はいまほど高くなかったかもしれません。しかし、厚生労働省では2016年度の調剤報酬改定以降、「かかりつけ薬局」を推進し、面分業によって患者にとってよりよい医薬分業を実現しようとしています。これらの背景から、薬局開業における場所選びは、これまでとは違った形でより重要になっています。
薬局開業の場所選びにおいて検討するポイント
実際に薬局の開業場所を選ぶ上では、以下のようにマクロとミクロの視点で検討していきます。
■マクロ視点
・商圏規模
特定時点の瞬間的断面における人口数や人口変動データをもとに、想定される商圏の市場規模を調べます。
・商圏の質
年齢別人口や医療施設数などのデータから、想定される商圏にどのような患者さんがいるかを調べます。
・競合
調剤薬局やドラッグストアの位置関係から、想定される商圏にどのような競合先がいるかを調べます。
ミクロ視点
・接近容易性
多くの人が集まり出入りするような施設との位置関係や日常的に人が行き交う動線有無、また物件の立地などから、店舗へのアクセスと入店しやすさを調べます。
・知覚突出性
物件の周辺環境や動線から、店舗がどこからどんな状態で見えているかを調べます。
・土地と建物制約
物件の大きさや形状、建物の形や階層、土地の傾斜などから、事業内容に対して適した物件かを調べます。
これらの情報を一通り集め、顧客数が確保できるかどうか検討します。さらに、実際に現地に足を運んで、商圏のリアルな雰囲気を感じることも欠かせないプロセスです。
実際に商圏分析をやってみた!
ここからは、実際の地域をもとに分析した流れをご紹介します。
商圏分析をはじめるまえに
今回はサンプル調査のため、人口及び薬局数が全国平均に近い都道府県と市を選定し、分析を行っていきます。なお、物件の条件はすべて同じと仮定します。
商圏分析のための4STEP
STEP1.比較する地域をいくつかのグループにわける
今回は市が定めた管轄地域を最初のグループとし、そこから有力地域を絞り込みながら、比較していきます。
STEP2.比較する条件を決める
次に、開業場所を分析する条件を設定します。前項「2. 薬局開業の場所選びにおいて検討するポイント」で紹介したマクロ視点、ミクロ視点から条件を見ていきます。
※今回はサンプルなので、ミクロ視点(接近容易性、知覚突出性、土地・建物制約)については考慮しないこととします。
STEP3.比較する条件に合わせて情報収集をする
マクロ視点で必要な情報は次の通りです。
・商圏規模(人口静態・人口動態)
・商圏の質(年齢別人口・医療施設数)
・競合制約(薬局・ドラッグストア)
参考:
政府統計の総合窓口(e-Stat)
https://www.e-stat.go.jp/
RESAS(地域経済分析システム)
https://resas.go.jp/#/8/08202
STEP4.収集した情報から開業に適した地域を選ぶ
比較するグループごとに調べた情報を並べ、各条件で比較して見ていきます。ここでは地域名を伏せてお届けいたします。
(1)管轄地域
人口・医療施設ともに多い点は「地域グループ1」と「地域グループ2」に共通しています。しかし、人口動態と年齢別人口を加味すると、「地域グループ1」より「地域グループ2」の方が若い世代が育ち、人口が減りづらい地域と想定されます。
また「地域グループ5」は人口減少が他地域よりゆるやかで、少子高齢化の進行が抑えられているように見受けられますが、人口の母数は少なく、診療所・薬局の数を見るとマーケット余地は少ないようにも考えられます。
ここでは、薬局・診療所の数からマーケット余地があると想定される「地域グループ2」を有望な開業場所と仮定し、さらに選択肢を絞って分析していきます。
(2)町・大字
先ほどと同じように人口統計と年齢別人口、医療施設を比較して見ていきます。その中から以下の3つの町が有望な開業場所であると仮説が立てられそうです。
・高齢化は進んでいるが、人口と医療施設が多い「B町」
・人口は少ないものの、国道に近く昼間人口が多いと想定される「A町」
・人口は少ないものの、国道沿いにあり少子高齢化が進んでいない「D町」
この分析を確かなものにするため、さらに細かく情報を収集していきます。
数字データから町単位でのあたりをつけたところで、地図を使って医療機関や住宅地の立地を視覚的に確認し、そこから人流を予測します。
■例 |
このように数字と地図による分析ができたら、次にそれぞれの町で何丁目がよいか、細かな立地を考えていきます。今回は「B町3丁目」、「A町2丁目」、「D町2丁目」の3つが有望な地域として導き出されました。
(4)丁目
各地域の昼間人口を交通量とした場合、「B町3丁目」は昼間・夜間ともに多くの人がいる可能性が見えてきました。2km圏内の医療施設・薬局数も多く、それぞれの位置関係から門前との結びつきが強いようにも考えられます。
一方で「A町2丁目」は病院が2つあるにも関わらず、2km圏内の薬局数が他2つの地域と比較すると少なため、狙い目とも考えられます。
また、「D町2丁目」は夜間人口が少ないものの、他2つの地域と比較すると少子高齢化が進んでいません。加えて、都市計画道路の開通も鑑みると人流が一定あると想定されます。
これらの考察から、「D町2丁目」と「A町2丁目」が開業場所に特に有望ではないかという仮説にたどり着きました。
専門家による「商圏分析の精度を高める!ワンポイントアドバイス」
ここまでの分析内容を、薬剤師として薬局で勤務した経験を持ちながら、中小企業診断士として数多くの薬局開業を支援してきたアールズフィールド株式会社 代表 石井律子さんにぶつけてみました。
ー今回の商圏分析について、総評をお願いします アールズフィールド株式会社 石井 律子さん(以下、石井さん):基本的な考え方は問題ないですね。特に、医療機関と薬局の結びつきを考えて場所を絞ったところはすごくいい視点です。
ー現地で確認する際に、さらに留意したほうがよいポイントはありますか?
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【まとめ】開業場所で失敗しないために
候補となるエリアをいくつかのグループに分け、収集した情報で比較検討しながら選択肢を絞っていく。ある程度まで絞れたら、実際に足を運び、目で見て確かめる。このプロセスは、どのエリアでも基本的に変わりません。
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