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税理士さんに聞く薬局経営!開局前に知っておきたい経費の考え方


薬局開業において、開業後に必要なことを知り、事前に準備しておくことが大切です。そこで、本記事では、アカウンティングフォース税理士法人 代表税理士 加瀬 洋さんに薬局にまつわる費用・税金に関する疑問を解説いただきます。薬局の開業を検討している方はもちろん、経営において会計・経理に悩んでいる方にもおすすめです。

目次[非表示]

  1. 1.経費の考え方
  2. 2.税金対策のための考え方
    1. 2.1.利益と所得のバランス、初年度はどうする?
  3. 3.顧問料の決め方
  4. 4.「登記費用」に含まれるコスト
  5. 5.インボイス制度への対応
  6. 6.開業初年度、扶養に入るための給与上限
  7. 7.役員報酬を変更したときのデメリット
  8. 8.さいごに

経費の考え方


ーさっそくですが、経費は売上の何割に抑えたほうがよいのでしょうか?

アカウンティングフォース税理士法人 加瀬 洋さん(以下、加瀬さん):
私は京セラ創業者の稲盛さんのことが好きでよく勉強しているのですが、稲盛さんが言うには、利益率◯%で販管費を◯%という基準を決めてしまうと、そこに意識が寄っていき、より高い利益率を実現しにくくなるようです。例えば、利益率5%を目標に設定してしまうと、潜在意識が働いてしまうため利益率が5%を超えづらくなるようなのです。これは経営的には決して良いことではないです。利益率や費用の割合に業界水準というものがあると思うのですが、その業界水準に甘んじることなく利益率をいかに高めていくか重要だと考えています。

経費に関しても同じです。必要なものは当然使うのですが、必要じゃないものは一切使わない。コストを減らす意識はやはり強く持った方がいいので、基準を決めて会社を経営することはあまりおすすめしません。

ー経費はできるだけ少なく、利益率はできるだけ高いほうがよいということですね。

そうですね。売上最大・経費最小という考え方が重要です。利益が増えればお金は必ず増えます。

ただし、利益が増えると税金が増えてしまいます。
そのため、経営者さんからは税金を減らすために利益を減らしたいとよく相談を受けるのですが、利益が増えれば必ずお金は増えます。お金が増えなければ事業拡大はないので、利益を増やすのか税金を減らすのかの判断に悩まれます。経営的に求められる姿として、私はやはり利益を増やす1択だと思っています。利益を増やす1択の中で、合法的に税金を減らすというアクションをすればいい。

経営をしている中で、税金を減らすために経費を増やそう売上を減らそうと考えるのは、一生懸命取り組んでいることを無駄にしてしまう行為だと思います。売上はできるだけ多く、そして経費はできるだけ小さくする、これが経営的に重要かつ基本的な考え方です。

ーコストや工数をどの程度かけるべきかは、どのように判断したらよいのでしょうか?

売上を考える上で、コストや工数をどこまで許容するかの判断は難しいです。投資してそこからどれだけ売上が上がるかは将来のことなので正確なことは誰にもわかりません。だからと言って、何も考えずに投資をするというのも当然駄目で、やはりしかるべきシミュレーションはすべきですよね。

現実問題、将来のシミュレーションをして確証が持てる状況に行き着くことは稀ですし、仮にそういう確証が持てるぐらいシミュレーションしたら逆に行動するとしても遅い状況かもしれません。だからこそ、ある程度のスピード感を持ち、判断ではなくて決断をしていく。そのためには、起業や事業に対する想いを強く持つことや、自分の覚悟を決めて行動していかないといけない。薬剤師という側面を持ちつつ、他方では経営者としての側面をこれから身につけていく必要があると思います。経営にゴールはないですから、ずっと学んでいくことが重要ですね。


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税金対策のための考え方

ー税金に関してどのような知識を身につけるとよいでしょうか?

加瀬さん:
まず、税金がどうやって計算されているのか、その全体像を知るべきです。それを押さえておかないと、特定の部分だけ気をつけた結果、その部分は確かに理想通りになったとしても、逆に他の部分の税金が増えてしまうみたいなことが往々にしてあるんです。ありがちなもので言うと、会社の利益を減らそうと自分の役員報酬を上げるケースです。

役員報酬が経費で認められるので、経費が増えると会社の利益が圧縮され、結果として税金も圧縮されます。ただ、当然自分の収入が増えますから、その分、所得税が増えてしまいます。

法人と個人、トータルで税金をミニマイズしていくことを考えるためにも、まず全体の仕組み知ることはとても重要だと思いますね。

ー全体の仕組みを知るためには、書籍等で学ぶとよいでしょうか?

十分だと思います。今だとWebで調べればいくらでも出てきますので、まずはリサーチしてベースとなる知識を収集されるのが近道です。

利益と所得のバランス、初年度はどうする?

ー初年度は会社としての利益と個人としての所得のバランスが把握しづらいと思います。それぞれの割合はどのように考えるとよいのでしょうか?

まずはバランスを考えるよりも、節税をもっと検討しないとまずいっていう状況へ最短距離で目指していくことが正解だと思います。特に1年目はコストが先行するため、会社の利益はあまり期待できないことが多いです。ですから、バランスを考えるよりも、開業した年はお客様の笑顔とその売り上げの増加と従業員働き方に集中して、より良い経営をしていく方がプライオリティは高いと思います。


事業をはじめると税金は払いたくないということで「節税しなきゃ」と考えはじめる方が少なくない。ただ、節税って、多くの税金を払うという状況にならなければあまり意味がないですよ。日本は累進課税制度をとっているので、多くの税金を払う状況であれば、税率も高く、そういう状況で節税対策を実行すると、節税効果も高くなります。逆に言えば、そういう多額の納税をする状況になるまでは、ひたすら利益の最大化を目指していかれるべきだと思います。

事業開始した直後はコストが先に出て認知度が徐々に上がっていき、売り上げが増えた結果、やっと利益が出る。それがおそらく開業して半年後なのか9ヶ月後なのか、1年後なのかはわかりませんが、多くの場合、最初は損が続きます。

そのため、損が続いているときに節税を一生懸命考えるよりも、とりあえず売上をもっと上げようと考えて行動することが正解なんですよね。

個人の所得税率はその収入によってどんどん上がります。所得税で言えば最高45%、住民税の10%を含めると合計55%税率がかかります。しかし、あまり収入が高額でなければ、所得税の税率は5%とか10%とかなんですよね。たくさん稼げるようになると所得税率は45%になりますから、その状況のほうが節税のインパクトがありますよね。

最初はまずは稼ぐことが優先。この優先順位を間違わないこと。これは、結構重要なんじゃないかなと思います。

顧問料の決め方

ー インターネットで調べると税理士さんの顧問料は、事務所によって異なるように見受けられます。これらはどのように決めているのでしょうか?

加瀬さん:
事務所によってさまざまではありますが、お客様の年商と税理士の業務の範囲、あとは打合せの頻度等で決めているところが多いと思います。やはり税理士や弁護士とか士業は時間を切り売りしている側面があるので、打合せ回数が増えると顧問料が上がってしまいますね。

ーありがとうございます。最近だとオンライン打ち合わせのほうが顧問料を下げる税理士さんもいらっしゃいますよね?

あると思います。ただ、顧問料について補足すると、業務量だけでなく、税務リスクも顧問料に関係します。売上1,000万円と数億円の会社であれば、判断を誤ったときのペナルティが大きく異なりますから年商が大きければ大きいほど顧問料も増えて行く傾向はありますね。

「登記費用」に含まれるコスト

ー登記費用は1万円未満の電子申請の会社もある一方で、窓口申請で30万〜40万円の会社も目にすることがあります。これらはなにが異なるのでしょうか?

加瀬さん:
登記にかかる費用は、法務局にかかるコストと司法書士事務所の手数料の2つがあります。無料で登記できると謳っているものの多くは、司法書士事務所の手数料が無料になるだけなんです。法務局にかかる登録免許税や印紙代は基本的にすべてにかかります。

ただ、法務局にかかるコストも無料と謳っている税理士事務所も過去にみたことがあったのですが、それはつまり、法務局にかかるコストや司法書士事務所の手数料を税理士事務所が肩代わりしているということなんですよね。その後のサービスのどこかで回収しているはずなので、その点を納得の上ご契約されたほうがよいかなと思います。

ーありがとうございます。司法書士さんと繋がりのある税理士事務所さんもいらっしゃると思うのですが、その繋がりのある司法書士さんにはお願いしたほうがよいのでしょうか?

加瀬さん:
必ずしも繋がりのある司法書士さんである必要はありません。弊社にも繋がりのある司法書士さんがいて、基本何かあればその事務所と連携して進めますが、特にバックマージンもらっているわけではありません。もらっている所もあると思いますが。
連携している司法書士事務所は設立に関する手続きを何度も一緒に経験しているので、間違いが少ない。他の司法書士さんだと手直しが発生する場合もあるので、税理士としては普段一緒に取り組んでいる司法書士さんのほうがやりやすいですよね。

ー司法書士さんとの繋がりがある方やこだわりがある方以外であれば、よい司法書士さんを探すのも大変なのでお願いしたほうがよさそうですね。

そうですね。幼馴染や大学時代の友人が司法書士さんで…という場合は、そういった方にお願いするのも良いと思います。仮に税理士さんから紹介された司法書士さんの報酬が高い場合やサービス面で納得感がないような場合であれば話は別ですが、そういった懸念がなければ税理士さんと繋がりある司法書士さんでよいかなと思います。

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インボイス制度への対応

ー2023年10月からインボイス制度がはじまりますが、薬局としてなにかしたほうがよいのでしょうか?

加瀬さん:
薬局の中でも店舗によって、商売の特徴があると思います。極論ですが、個人の方が100%売上先であれば、インボイスはほとんど影響がありません。また、薬局を運営する上で薬を仕入れることもあるし、スタッフ・従業員の方を雇うこともあると思いますが、外注の方にお願いすることがそんなにないのであれば、これまたインボイスはあまり関係がないんですよ。

ただ、逆のケースも当然あります。法人に対する売上が多い、広告宣伝などで外部の方にお願いしていることが多いケースだと、自分がインボイスに登録してるかしてないか、さらには外注さんがインボイスに登録しているかしてないかによって消費税額に影響が出てきます。

薬局だからといって100%影響がないとは言えませんが、業種の特徴としてそれ以外のビジネスと比べると、インボイスの影響は少ない部類には入るとは思います。

零売(れいばい。処方箋医薬品以外の医療用医薬品を販売すること)であれば消費税法上、「課税売上」という扱いになるので、消費税の納税に関係してくるのですが、零売の売上が1000万を超えなければインボイス登録しなければ納税は発生しないため、影響はないのではないかなと思いますね。

自分がインボイス登録しないと相手に迷惑をかけてしまうことになるのですが、制度開始後6年間は特例が認められていて、特に最初の3年間は相手にかかる迷惑度が本来の影響度の2割ですむように制度設計されています。

自分が納税しなければいけない場合でも、課税売り上げの2割だけ納めればいいという特例も認められているので、最初は様子見という経営スタンスも容認されやすいのではないかと思いますね。

ーあとからでもインボイス登録は可能ですか?

大丈夫です。

ーありがとうございます。安心しました。


開業初年度、扶養に入るための給与上限

ー開業直後は赤字の可能性が高いため、家族の扶養に入ることを検討しています。給与はどのように考えると良いでしょうか?

加瀬さん:
扶養と一言に言っても、実は住民税・所得税・社会保険の3つの扶養があります。
大企業に勤めているか否かでハードルは変わり、細かいルールはあるのですが一番多いケースで言うと住民税は100万円、所得税は103万円、社会保険料は130万円がそれぞれの基準となります。

所得税を払いたくないと言うことであれば、そのハードルは103万円なので、103万円を12で割ると8万5833円となり、月々の報酬を8万5832円以下にしておけば所得税は課されません。100万円を12で割ると8万3333円なので、8万3332円以下にしておけば、住民税もかかりません。ただし、所得税と住民税の影響としては、この扶養の基準金額を超えたとしても、その超えた部分に対して税金が少しかかるぐらいなので、あんまりそこを気にする必要ないです。

一方で、社会保険の場合は、130万円を超えると月々約1万6000円程度の社会保険料の負担が発生します。このインパクトは大きいと感じる方は多いのではないでしょうか。そのため、社会保険料負担を考慮した上でより多くを稼ぐか、社会保険料負担避けるために130万円以下にしておくかという点でご検討されるがいいんじゃないなと。2023年9月に厚生労働省から「年収の壁・支援強化パッケージ」が公表されたので、そちらもご参照いただくと参考になるかと思います。

参考:「年収の壁・支援強化パッケージ」について(厚生労働省)

   

ー1年目は赤字になってしまうのであれば、いっそのことパートナーの扶養に入った方がいいというケースもありますか?

確かにあるかもしれないですね。扶養の範囲内に当てはまるような報酬額にすれば家族の扶養に入れます。

役員報酬を変更したときのデメリット

ー売上が下がってしまった場合、役員報酬を下げることは可能でしょうか?なにかデメリットがないか不安です。

加瀬さん:
​​​​​​​会社を前提としてお話しますと、役員の毎月の報酬、つまり役員報酬ですが、この役員報酬は1回決めたら基本1年間同じ金額でないと税務上経費として認められないというルールがあります。下げてもいいのですが、デメリットがあります。

例えば月額の役員報酬が30万円だった方が、9ヶ月間毎月30万円の役員報酬にしていたのに業績が少し悪くなったため、10ヶ月目から20万円下げて10万円にしたとします。この場合、過去9ヶ月間においても、税務上経費として認められるのが10万円部分のみとなります。つまり毎月30万円払っていた役員報酬のうち20万円、それが9ヶ月分あるので20万円×9ヶ月の180万円が税務上、損金にならなくなります。

つまり、毎月同額で費用計上している部分のみが税務上の経費として認められ、それ以外は税務上の経費にならなくなります。さきほどの例で言うと、はじめの9ヶ月は毎月30万円を役員報酬として費用計上し、10ヶ月目から毎月の役員報酬を10万円として費用計上した場合、 20万円×9ヶ月=180万円を役員報酬として払っていても、それを税務上は損金として処理できず、法人税を圧縮する効果がなくなります。非常に痛いので、期の途中で役員報酬を変更するのはオススメしません。

これは役員報酬の金額をあげるケースも一緒です。今までの役員報酬が毎月30万円だった方が、利益がたくさん出るということで、10ヶ月目から50万円にあげたとします。すると10月~12月の3ヶ月分の役員報酬について、同額で払ってきた月額30万円より20万円が超過することになるので、このケースでいうと20万円×3ヶ月の60万円は税務上の損金にならない。

なぜこのようなペナルティがあるかというと、これは私の私見ですが、 役員報酬を決める社長が自分の役員報酬を自由に決めて、それがいくらでも税務上の経費になるのであれば、会社の税金をいくらでもコントロールできる事になります。これでは課税目的の公平性も守られないため、役員報酬を変更した際の差額は全額経費にしませんよというルールになっているのだと思います

仮に業績が悪くなった場合は、会計上、会社の経費としては30万円を計上し続けるが、10万円しか払わないようにする。所得税とかすべて無視して考えると、この場合、20万円未払いの状況が続くことになります。この20万円の未払金をそのままプールしておいて、ある程度業績が良くなったらまとめて払う方法ということもできるので、期中において安易に役員報酬額は変更しないほうが良いです。

ー会社が借りている状況になる?

そうです。会計上、計上する経費は増減させず、基本、同額で処理していたほうがよいです。
また、初年度役員報酬を設定する際に、資金繰りをあまり不安視する必要はないかと思います。高額な役員報酬にすることで会社にお金がなくなってしまうことを気にされる方がいますが、その場合であれば、役員が会社にお金を貸すこともできます。役員が会社にお金を貸し付けるということは、お金に余裕がありさえすればいくらでもできます。しかも、青色申告であれば、10年間損失を繰り越すこともできます。そのため、役員報酬でしかるべき金額もらって、会社のお金が不足したら会社にお金を貸すことで事業を回していくことができます。

ーなるほど!これは相談しないとわからないですね…!

さいごに

経営者として会社の舵を取っていくためには、専門的な知識・経験をもつ専門家を適切に頼ること。そして、正しい経営数字のもとに意思決定を行うことが大切です。
『Musubi』では、患者さんの来局体験とアドヒアランス向上を支援するプラットフォームを提供しています。開業直後から導入される薬局さんも増えており、新規患者さんの来局や既存患者さんの再来率アップなど売上に関わる部分でもご活用いただいております。

まずはお気軽にご相談ください。

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加瀬 洋
加瀬 洋
青山学院大学経営学部卒業後、公認会計士に合格。資格の学校TAC財務諸表論講師、監査法人トーマツ、(株)ドリームインキュベータを経て、税理士の兄とともに開業。 現在は「従来の税理士業務を超えるサービス」をモットーに、創業支援を中心に新規気鋭の企業様のサポートに従事。IPO支援やベンチャーインキュベーション、戦略コンサルティングの経験を活かし、経営者の視点に立ったサービスに注力している。 東京都産業労働局商工部創業支援課が運営する「Startup Hub Tokyo」において、セミナーも多く担当し、これまでに約7000名もの経営者にファイナンスを指導し、セミナーの受講生は約5000名を数える。 著書に『スタートアップファイナンス』(秀和システム)がある。
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