税理士さんに聞く薬局経営!薬局にまつわる開業の準備
薬局開業において、開業後に必要なことを知り、事前に準備しておくことが大切です。そこで、本記事では、アカウンティングフォース税理士法人 代表税理士 加瀬 洋さんに薬局にまつわる会計・経理に関する疑問を解説いただきます。薬局の開業を検討している方はもちろん、経営において会計・経理に悩んでいる方にもおすすめです。
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会計未経験者がやるべき準備
ー開業後に苦労しないよう開業前にどんなことに取り組んでおくとよいでしょうか?
アカウンティングフォース税理士法人 加瀬 洋さん(以下、加瀬さん):
日々の会計には「入金」と「出金」というお金の流れがあり、そこには領収書や請求書といった様々な証憑が紙・データともに存在します。お金の流れと集計方法を具体的にイメージし、管理することに慣れることが大切です。そのため、まずは家計簿をつけてみることをおすすめします。
ー家計簿というと紙でもエクセルでも、無料の家計簿アプリを使ってもよい。とにかく、手を動かしお金の流れを知ることが大事ということでしょうか?
加瀬さん:
そうですね。正確な数字集計を追求するのではなく、まずは触れてみる。事業を始めた後でもこの経験が生きてくると思うので、自分に合ったものを探すことが大事です。できることからはじめていくイメージでしょうか。
ーありがとうございます。開業後におすすめの運用はありますか?
加瀬さん:
将来的には証憑をスキャンや写真撮影でデータにしたのち、会計ソフトへアップロード・自動で処理することが理想だと思います。ただ、この運用に頼りすぎて しまうと、集計のプロセスについてなかなかイメージがつきません。そのため、はじめの数カ月間ぐらいはエクセルや電卓で金額を計算しながら、数字集計を体感することが良いのではないかと思います。
また、家計簿で情報を集計する際、領収書やレシートといった紙の証憑を日付別ではなく、種類別に封筒に入れて管理する運用がおすすめです。会計ソフトで処理すると、日付順にソートすることは簡単なので、会計処理の前に種類ごとで分けておくと必要な情報をピックアップし易く、集計する際に役立ちます。
開業前に発生したコストは経費になる?
ー分け方は交際費・消耗品費・交際費などの粒度でよいのでしょうか?開業前ですと会社をつくるための費用も発生するかと思います。
加瀬さん:
分け方は、ざっくりした大まかなくくりで大丈夫です。会社をつくるためのコストは創立費・開業費として費用計上できるので、証憑は保管しておいたほうがよいです。実務的には1年~3年前のコストは事業との関連が希薄になりがちで、税務的に損金処理できるかどうかは見解が分かれる部分かと思います。実務的には3〜6ヶ月前までのコストを計上しているケースが多いかと思います。
記帳し始める時期と手段
ー開業の準備段階から費用は発生しますが、記帳はどのタイミングでどのようなツールを使うとよいでしょうか?税理士さんにすべてお任せするケースもあると耳にします。
加瀬さん:
費用が発生し始めたら、会計ソフトもしくはエクセルやスプレッドシートのような表計算ツールで集計しておくと良いです。法人化するのであれば会社を作ったタイミングで法人として会計ソフトを契約するのが良いと思いますね。
記帳方法については、ご自身が簿記の知識をお持ちであり自分でやりたいということであれば、ご自身で会計処理をやるという選択肢もありますが、最初は税理士さんにお任せした方がよいと思います。なぜかというと、経営者には他にやることがたくさんあるからです。
勉強だからと前向きな方もいらっしゃるのですが、将来税理士になるわけではないと思うので 、決算書を作ることはプロに任せて、経営者は決算書を見て経営の意思決定に集中できる環境を作るほうが正解なのではないかと思います。
相談する相手は誰?
ーありがとうございます。税理士さんと公認会計士さんがいらっしゃると思うのですが、会計や税務の相談は税理士さんがよいのでしょうか?
実は会計士と税理士は全然違います。
公認会計士は上場企業、要は日本の会社のヒエラルキーのトップ2000〜3000社と仕事をするわけですが、税理士は数多くいる300〜400万社の中小企業と仕事をしています。
そのため、適用される法律もやっている仕事も全く異なるので、薬局における開業の場合は、税理士に相談するとよいかと思います。公認会計士資格を持ちながら税理士業務をやっている人もいますので、その場合であれば税理士と一緒なので相談するとよいかなと。
経営に関するソフトウェア・ツールの選定軸
ー昨今、会計に限らず経営を支援する便利なツールがさまざま世に出ていますが、これらはどういった観点で選ぶとよいでしょうか?
加瀬さん:
大切なのは3つです。ひとつめは、汎用性が高いもの。ふたつめは、インターフェイスが自分にあっているもの。最後にコストです。この3つの観点で自分にフィットするものを選ぶのが良いと思います。
今の御時世、ひとつのソフトウェアで完結することはあまりないので、情報を連動させる前提で考えることも大事ですね。ソフトウェアによっては、イニシャルコストは安いがランニングコストが高いものもあれば、イニシャルコストは高いが拡張にはお金がかからないものもあります。
ー会計の観点では、従来のインストール型の会計ソフトだけでなく、クラウド会計ソフトを利用されている方も多いように思います。会計ソフトはどのような軸で選ぶとよいでしょうか?
加瀬さん:
コスト・使い勝手の両面でクラウド会計が良いと思います。その中でも、より簿記や会計の知識に明るい方は弥生、あまり簿記・会計の知識・経験が無い方はfreee会計、その中間がMoney Forward というイメージですね。それぞれクラウドの設計思想が全く異なるので、まずは自分で触ってみるとよいでしょう。
ー最近は1ヶ月無料で使えるソフトウェアも増えているので、ぜひみなさん触ってみてください。
複数店舗を経営するときの管理方法
ー複数店舗を経営していく場合、日々の会計処理や経営数字はどのように管理するとよいでしょうか?
加瀬さん:
店舗が増えるということは、目の行き届かない範囲が増えてくる。つまり、自分の目で実物を見ずして数字で管理するウェイトがどんどん大きくなってくるわけですよね。これまでと比較して、数字で管理することが必要になるため、店舗ごとに損益を把握することが重要になってきます。その上で、スピード感も求められます。
例えば、6月の月次決算が7月末にならないと出てこないとなると、数字を見たときにはもう1ヶ月前の情報になってしまう。それが、7月末ではなく7月月初に出てくる状況であれば、前月の数字から今月の打ち手を変えていけるわけです。
「会社とおできは大きくなると潰れる」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?会社が大きくなればなるほど今まで現場やお客さん、従業員を見て大体把握できていたことができなくなりますし、精度も下がります。だからこそ、数字で把握するっていうことを通じて経営するということを意識するのがすごく重要なのです。
リアルタイムに経営を把握するための工夫
ー数字をリアルタイムかつ精度高く集計するために、日々どんな工夫があるのでしょうか?
加瀬さん:
数字をいち早く集計するためには、専用の人材を雇用するなどコストがかかります。もちろん経営においてはコストをかけないことも重要なのですが、タイムリーに経営数字を把握できないということは、目をつぶって車を運転しているようなものです。
そのため、日々コストをかけてでもしっかりと精度の高い数字を集計し、タイムリーにその情報をキャッチアップする。経営数値を目の前の経営に活かしていくという意識を持つことが大切です。
数字を集計したその先で大切なことは、事業計画の策定です。なぜなら、経営に関する数字の良し悪しは、事業計画に対する進捗だからです。
1期目は難しいと思いますが、どこかのタイミングでぜひ年度計画を作成されることをオススメします。年度計画を月次に落とし込み、実績と比較したときに「なぜこんなにコストがかかっているのか」や「なぜ売上が達成しないのか」という気付きがあるはず。それらを分析していくと、顧客数や単価の変化などより具体的な課題を見出しやすくなり、具体的な経営改善のアクションに繋げやすくなります。
税理士さんに頼るタイミング
ーずばり、税理士さんとはどのタイミングで相談し始めるとよいのでしょうか。
加瀬さん:
法人化するのであれば、その時点で税理士と契約 したほうがよいです。
書籍やWebで検索できるので自分で調べられるとおっしゃる方も結構いるのですが、自分がわからないことは検索しようもないので、必要な情報、ひいては必要な行動が抜け落ちてしまうことがあります。
設立してから1年後、決算のときに弊社に相談いただいたときに、「この届け出は出していますか?」「源泉所得税は納税されていますか?」と投げかけると、知らないと答える企業さんもいらっしゃいます。
すべて調べたとしても、記載されているいろんな事象が自分に当てはまるかの確証が持てないですし、判断を間違ってしまうことがあります。
よくあるケースとして、知り合いの事例をもとに自分も同じようにやりましたということがあるのですが、その場合でも税務署から指摘が入るケースもあります。つまり、他の方がやっているからと言って、状況が違えば認められないこともあるので、そこを正しく理解してなくて失敗してしまうのですね。
各人・各社の置かれている状況はそれぞれ違います。専門家でないと正しい判断ができないことがあるのだと思います。
知らないと損する制度とは?
ー開業初期にやっておかないと損してしまう制度はあるのでしょうか?
よくお伝えするのは3つです。
ひとつは、半年分まとめて源泉所得税を納税できる納期の特例という届出です。この届出を出していないと源泉所得税は原則、対象となる源泉所得税を預かった翌月に納税期限が来るので、それに間に合わないとペナルティが発生してしまいます。金額が大きくなければ免税点もあるのですが、そこにも細かいルールがあります。
もうひとつは、設立してから3ヶ月以内に出さないといけない青色申告の届け出です。青色申告をすることのメリットの一つに損失を繰り越せるというメリットがあります。薬局におけるビジネスは、初年度に多額の投資を行うため、損失が出る可能性が高いと思います。
例えば1年目に400万円の損失が出て2年目に1,000万円の利益が出たとしましょう。ここで青色申告をしていれば、2年目の税金は600万円をベースに計算されます。1年目の400万円の損失を2年目の1,000万円の利益に充当することができるんですね。しかし、届出をせずに3ヶ月過ぎてしまうと、2年目の税金は利益の1,000万円をベースに計算することになるので、その分多く税金を払うことになってしまいます。
最後は、会社を設立してから2ヶ月以内に出さないといけない事前確定届出給与という届け出です。
ーなにも知らないと期限が過ぎてしまう制度が結構たくさんありますね…。
税務はとてもシンプルで「知っていればできるし、知らないからできない」そういう世界なんですよね。遡って修正できないことも多いので、税務のルールってまずは「知ること」がとても重要だと本当に思います。
ですから、「知っておかないともったいない知識」を税理士にいろいろレクチャーしてもらうのは、知らないうちに損をすることを防ぐためにすごく価値があると思います。
社会保険労務士さんへ依頼するタイミング
ー社会保険労務士さんとも開業初期に契約したほうがよいのでしょうか?
給与計算がそこまで複雑じゃないケースであれば、いろんなソフトもありますので、ご自身でもできると思います。ただし、社会保険や労働保険の加入手続きは少々大変なので社会保険労務士さんに依頼するのもアリだと思います。できるだけコストを抑えて内製化したい場合であれば、従業員が増えた場合の社会保険・労働保険の加入脱退手続きはご自身で対応するとしても、初回の手続きは社会保険労務士さんにお願いしてもよいかと思います。その後、更に人が増えてきて月次の給与計算等についても、内製化が難しい状況であれば、改めて社会保険労務士さんにアウトソースするというのがいいと思います。
ー融資審査のタイミングで人材雇用を含めて先々まで考えているかを見られているという話を伺ったことがあるのですが、経理を内製化するひとつの指標は売上1億円超えるかどうかなのでしょうか?
そうですね。1億円は私の肌感なので人によって前後があっていいと思いますが、自分がやる仕事/自分がやるべきではない仕事がどんどん増えていきます。すべてを社長がやっていては会社の成長スピードが鈍化してしまうと思います。
当然その分の人件費を負担できるような売上規模かどうか検討する必要もありますが、実務的には、社長が多忙になりすぎて必要に迫られて経理を内製化するケースが多い気がします。
薬局開業するなら個人 or 法人?
ー薬局を開業するにあたり、法人設立すべきか悩んでいます。どうしたら良いのでしょうか?
加瀬さん:
仮に年商1,000万円を超えるのであれば法人設立することをおすすめしています。日本は累進課税制度なので儲かるほど税率が上がりますが、個人事業主に比べ法人はそんなに上がりません。あまり儲けが大きくない最初のうちは法人と個人の間で手残りの金額にそんなに差がないのですが、一定の売上規模を超えると、法人化することで余計にかかったコストよりも税金が安くなっていきます。そのため規模が大きければ大きいほど会社を作ったほうが有利です。
世の書籍やネットでは売上1,000万円・所得が400万円を超えると法人化の方が有利と言われることがありますが、以前自分が計算したときはもっとボーダーとなる金額が低かったので、薬局であれば必然的に会社を作ったほうがよいと思います。
ーもし会社設立をするとしたら、開業までのどのタイミングで会社設立するとよいのでしょうか?
加瀬さん:
おすすめは、開業準備の段階から会社を作って、その会社としていろんなものを契約して進めていく方法です。開業後に事業形態を変更することもできますが、契約変更は手間なので最初に会社を設立して、そこから準備を進めるほうがよいと思います。
内部留保を増やすか、経費を使って税金を減らすか
ー経営をしていく上で税金を払って内部留保を増やすのと、経費を使って税金を減らす2択だとどちらがよいでしょうか?
私は経営的な視点から前者を推奨しています。
日本の税率は100%を超えることはないです。法人の税率はいっても24~34%程度。100万円稼げば約60~70万円は手元に残りますが、税金を嫌がって100万円で飲み食いし交際費として経費処理したら、その分税金は安くなりますが手元にはなにも残らないんですよね。経営していく上で次年度に使えるお金がなくなってしまいます。
税理士の立場から語ると意外だと思われるかもしれませんが、私は税理士というより経営的な視点において、経営者は次なる選択肢を増やす行動を取るのが正解だと思っています。
また、余談になりますが納税する場合の気の持ちようも人によって様々です。
税金は「高くて嫌だな、嫌だな…」と思って納税することもできれば、「日本のために少しでも貢献できる今の状況に感謝します。」と前向きな思いで納税することもできる。どちらにせよ納税するのであれば、どちらの気持ちで納税するのが今後の事業経営やご自身の人生にプラスになるかという話だと思います。
設立するなら合同 or 株式?
ー会社設立には株式会社と合同会社という選択肢もあります。どのような違いがあるのでしょうか?
加瀬さん:
細かい違いは幾つかあるのですが、私は3点大きな違いがあると思っています。
1つ目は、株式会社は所有と経営が分離されているので、お金を調達しやすいという点です。合同会社はお金を出資した人が基本的には会社の社員(株式会社で言うところの役員)になるので、お金の調達がちょっとしづらいんですね。将来、株式上場を果たしたいなど資金調達が必要になることを考えている場合は、株式会社の方がいいです。
2つ目は、端的に言うと知名度です。現時点で日本の中では株式会社の方が有名ですよね。合同会社も数年ぐらい前から会社設立の3分の1を占めていると言われているので、知名度は上がりつつありますが、それでも株式会社の方が世の中的には知られています。
(株)という表記は皆さん知っていると思いますが、合同会社の場合は(同)と表記されるので周囲からなんだろうと思われることもあります。
最後は費用ですね。大体の場合、株式会社だったら25〜30万円ぐらい、合同会社だったら大体10〜15万円ぐらいの間で会社を設立できるのが一般的ですので、なるべく安く仕上げたいのであれば合同会社かなと思います。
将来的に上場や会社を売却する可能性、あとは取引会社からどう見えるかっていう知名度やコストに違いがあるので、それらについて自分が何を優先するかで決められるのがいいかなと思います。
さいごに
経営者として会社の舵を取っていくためには、専門的な知識・経験をもつ専門家を適切に頼ること。そして、正しい経営数字のもとに意思決定を行うことが大切です。
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