開業に必要な準備と届出とは?薬局開設者のための開局手続きガイド (後編)
薬局の開業・開局までには、各役所への書類の提出や申請など、数多くの手続きがあります。後編となる本記事では、事業をはじめる際に必要な一般的な開業に必要な手続きについてご紹介します。薬局にまつわる手続きを知りたい方は前編にてご覧いただけます。 |
目次
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- 1.事業開始までの流れ
- 1.1.事前準備
- 1.1.1.事業形態を選択する(個人 or 法人)
- 1.1.2.商号(会社名)と所在地(物件)を決める
- 1.1.3.事業目的を決める
- 1.1.4.開業資金を調達する
- 1.2.開業に必要な書類と開業手順
- 1.2.1.個人の場合
- 1.2.1.1.開業届の提出
- 1.2.1.2.所得税青色申告承認申請書の提出
- 1.2.2.法人の場合
- 1.2.3.会社設立に必要な書類
- 1.3.開業において準備しておくと便利なもの
- 1.3.1.事業用クレジットカード/口座
- 1.3.2.ホームページ/SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)
- 1.3.3.名刺
- 2.理想の薬局づくりをするために
事業開始までの流れ
事前準備
事業形態を選択する(個人 or 法人)
事業開始にあたり、まずは事業形態を決める必要があります。事業の運営主体は大きく「個人」と「法人」に分けられます。「法人」はさらに、「株式会社」「合同会社」「一般社団法人」などに分類されます。現在、保険登録されている薬局のほとんどが「法人」、その中でも「株式会社」が圧倒的多数です。
事業形態によって税金や規制の面で違いがあり、それぞれメリット・デメリットがあります。どの事業形態を選ぶかは付き合いのある税理士や行政書士に、事業構想や将来ビジョンと共に相談してみると良いでしょう。
商号(会社名)と所在地(物件)を決める
法人の場合、商号(会社名)を決めます。個人の場合は商号ではなく「屋号」として「〇〇薬局」など自由に名前を決められます。
薬局においては物件の立地が非常に重要です。お客様の通いやすい場所、設備などを吟味して決めていきます。
事業目的を決める
薬局を新しく開業・開店するにあたって最も大事なことは、未来を見据えた経営戦略を立てることです。すなわち、薬局経営におけるミッション・ビジョン・バリューを策定し、どんな薬局を目指すのかを言語化することが必要です。言語化することで薬局の軸ができるため、立地や内装といったその後の開業準備をスムーズに進めることができます。
また、会社設立時には「事業目的」を記載する書類(定款)があります。。定款に記載する際は、会社と関係のない人が見ても理解できる形で明確かつ簡潔にまとめておきましょう。原則として会社はこの事業目的の範囲で事業を行うことになりますので、書き方には注意してください。
書き方に迷う場合は、同業他社のものを参考にするのがおすすめです。企業によってはWebサイト上に定款を載せている場合があります。
また、所定の手数料を支払えば法務省の登記簿を閲覧することができます。ぜひ参考にしてみてください。
開業資金を調達する
続いて開業資金の準備です。自己資金のみで開業できる場合は新たな調達の必要はありませんが、事業には運転資金も必要。
特に薬局の場合、設備や薬剤などの初期投資額が大きい事に加え、調剤報酬の振込は調剤から約2ヶ月後となります。つまり、最低でも初期投資額+2ヶ月分の運転資金を用意しておく必要があります。
また、会社設立時には資本金が必要となりますが、あまりにも資本金が少なすぎると、取引先からの社会的信用が低くなってしまうことがあります。制度をうまく活用し、ゆとりをもって開業資金を準備しましょう。
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開業に必要な書類と開業手順
選択する事業形態によって、提出が必要な書類や手続きが異なります。
個人の場合
開業届の提出
- 開業届とは、新たに事業を開始したときに提出する書類です。
- 提出時期:事業の開始日から1か月以内
- 必要書類:個人事業の開業・廃業等届出書
- 提出方法:書類を印刷した上で、納税地を所轄する税務署の窓口で手渡し、税務署の時間外収受箱に投函、郵送のいずれかで提出
- 手数料:不要
所得税青色申告承認申請書の提出
所得税青色申告承認申請書は、開業時に必須の書類ではありません。ただ、記載の手間があまりかからず、税制的にもメリットが多い書類です。その年の3月15日までに提出しなければ青色申告が適用されないため、開業届と合わせて税務署へ提出するのがベター。提出方法や手数料は開業届と同様です。
法人の場合
法人登記を行う
法人登記とは、商号や本社所在地、役員の氏名など、法人の基本的な情報を登録することです。登記することで、法人が持つ権利や義務を社会に広く報せることになり、社会的な信用を担保できます。
登記申請は代表者がするのが原則。ただ、委任状を作成すれば代理人による登記申請も可能です。登記申請後、不備がなければ10日ほどで登記完了となります。
具体的な流れですが、基本的には、法務局のホームページにある、商業・法人登記申請手続に記載されている流れに沿って進めればOK。株式会社と合同会社を設立する場合、法人設立ワンストップサービスを使えばオンラインかつワンストップで手続きを行うことができます。なお、オンライン申請にはマイナンバーカードが必要です。
また、最近ではfreee会社設立やマネーフォワード クラウド会社設立などの会社設立書類を作成する支援サービスも充実しているため、上手に活用してみるとよいでしょう。
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会社設立の手順
Step1 発起人・重要事項(基本事項)を決める
発起人は、会社を設立する責任者を指します。重要事項(基本事項)とは、会社の骨格となる内容です。登記に必要な書類である「定款」に記載する項目も多いため、あらかじめ定めます。
事前準備で決定した「事業目的」「商号(会社名)」「本店所在地」「資本金」に加え、次の項目を決めておきましょう。
- 事業年度:会社の開始月、決算月をいつにするか
- 出資者とそれぞれの出資額:誰がいくら出資するのか
- 株式譲渡制限:株式の譲渡に関して制限を設けるかどうか。中小企業のほとんどがこれを設けている
- 機関設計:取締役や代表取締役、監査役など会社の役員構成の設計
Step2 会社の代表印をつくる
会社の代表となる実印を作成し、さらに印鑑届書を用意します。2021年2月15日から、オンラインでの設立登記申請をする場合、印鑑の準備は任意となりました。ただ、実際の会社運営の中では、まだまだ実印を使う場面が多いのが現状。このタイミングで「実印」と、「角印」や「銀行印」を作成し、会社設立3点セットを用意しておくと便利です。
Step3 定款を作成する
定款(ていかん)とは、会社の組織や活動を定める根本規則を記したものです。基本情報は下記「会社設立に必要な書類」の項に記載しています。
Step4 定款の認証を受ける
作成した定款を公証役場に提出し、認証の手続きをします。認証を受けることで、定款に法律的な効力が生じます。
Step5 資本金を払い込む
各出資者が資本金を特定の銀行口座に払い込みます。登記申請の際、口座に振り込まれたことを証明する書類を求められるため、通帳の表紙と払い込みが印字されたページはコピーを取っておく必要があります。
Step6 登記申請を行う
次に紹介する「会社設立に必要な書類」を準備した上で、法務局の窓口での手渡し、郵送、オンラインのいずれかで申請します。
会社設立に必要な書類
- 設立登記申請書
- 登録免許税分の収入印紙
- 定款
- 発起人の同意書(発起人決定書、発起人会議事録)
- 就任承諾書(代表取締役、取締役)
- 設立時取締役の印鑑証明書
- 資本金の払い込みを証明する書面
- 印鑑届書
- 「登記すべき事項」を記載した書面又は保存したCD-R
※法人パターン別の必要書類は法人設立ワンストップサービス事前準備に一覧で記載されています。
1.設立登記申請書
商号、本店所在地、登記の事由、資本金や登録免許税の金額、定款などの添付書類などを記載する書類です。
2.登録免許税分の収入印紙
登記申請の際は免許税分の収入印紙をもらい、それをA4のコピー用紙などに貼付して提出します。株式会社の場合、登記免許税は「150,000円」と「資本金額×0.7%」のどちらか高いほうを支払います。
3.定款
定款は、会社、公益法人、社団法人、財団法人、各種協同組合等の法人の目的、組織、活動に関する根本となる基本的な規則です。いくつかの記載例を参考にしながら、自分たちの状況に合わせて慎重に検討し原案をまとめていきます。行政書士や司法書士などの専門家に作成を依頼する場合でも基本的な事項については考えておきましょう。
参考:
日本公証人連合会「定款等記載例」
http://www.koshonin.gr.jp/format/
法務局「商業・法人登記の申請書様式」
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/COMMERCE_11-1.html
※ 設立登記申請書の記載例の後ろに定款の記載例があります。
記載事項
定款には必ず記載すべき事柄が5つあります。「絶対的記載事項」は以下の通り。
- 事業目的
- 商号(会社名)
- 本店所在地
- 資本金
- 発起人の氏名又は名称及び住所
費用
株式会社と合同会社の場合、次の費用がかかります。
- 定款用収入印紙:40,000円(電子定款では不要)
- 定款の謄本手数料:250円/1ページ
- 定款の認証料:30,000~50,000円(資本金額によって異なる)
4.発起人の同意書(発起人決定書、発起人会議事録)
発起人の同意書とは、定款で記載していない事柄かつ発起人が定めるべき内容(本店所在地、発起人の引受株式数・払い込む金額等)を詳細に決定したことを証明するための書類です。
5.就任承諾書(代表取締役、取締役)
設立時に代表取締役および取締役に就任することを承諾することを証明する書類です。
6.発起人の印鑑証明書
発起人の印鑑登録証明書のことです。発起人が複数いる場合は、全員の印鑑登録証明書が必要となります(取締役会を設置している場合は、代表取締役のみでOK)。
7.資本金の払い込みを証明する書面
資本金を払い込んだことを証明する書類です。通帳内容のコピーを証明書に添付し提出することになります。
8.印鑑届書
会社の実印登録のために必要な届出書類です。
9.「登記すべき事項」を記載した書面又は保存したCD-R
「設立登記申請書」の中にある「登記すべき事項」はCD-R等に保存して提出する必要があります。ただし、オンライン申請の場合、CD-Rの提出は不要となります。CD-Rを提出する場合、国指定のCD-R様式を求められますので注意してください。
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開業において準備しておくと便利なもの
事業用クレジットカード/口座
個人用クレジットカード/口座と事業用クレジットカード/口座を兼用してしまうと取引の記録が不便になったり、不備が発生しやすくなったりします。取引を円滑にするために、事業用クレジットカード/口座をつくっておきましょう。
法人口座開設の際、金融機関によって多少異なりますが、会社の商業登記簿謄本、定款、代表印、印鑑証明書などの提出を求められます。
ホームページ/SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)
店舗を持つ薬局経営においても、より多くのお客様に必要な情報を届け、信頼性向上やブランディングをする手段としてホームページやSNSは重要です。特にホームページは会社の「顔」であるため、デザインを含めて制作に自信がない場合はない場合は専門家につくってもらうのも1つの手です。
名刺
名刺は対面での取引や挨拶の際に活用するため、名前の他、肩書きや所在地、連絡先などを記載します。名刺の裏側にHPなどのQRコードを載せてすぐに飛べるようにしている人もいます。
参考:
[手続名]個人事業の開業届出・廃業届出等手続|国税庁
[手続名]所得税の青色申告承認申請手続|国税庁
株式会社設立登記申請書
理想の薬局づくりをするために
薬局開業にあたっては、必要な許認可が多いため手続きやその準備に相当な時間がかかります。審査が厳しい地域では許認可が下りず、開局予定日にオープンできない恐れも。融資を受ける場合、予定の遅れは金融機関の心象を悪くしますので、手続きに関するサポートや委託を考えた方がいいでしょう。
登記申請等の事業開始のための手続きと、薬局特有の申請や薬剤仕入れなどのタスクを並行して行わなければならない立ち上げ期は、計画的に準備を進めることは必須です。
さらに、オープン後は従業員対応、患者さん対応、在庫やお金の管理など、経営面のタスクが積み重なってきます。忙しい中でも対応していくために、効率的な経営ができる基盤を作っておくことが大切。
薬局の経営支援プラットフォーム『Musubi』は、理想の薬局づくりのパートナーとして、日々の薬歴作成や服薬指導にかかる時間と手間を削減し、経営管理数値をクラウドで自動集計することで経営全体をサポートしています。調剤薬局の開業を検討されている方は、ぜひ一度ご相談ください。
【関連記事】薬局開設者のための開局手続きガイド(前編)