ついにはじまる、電子処方箋!厚労省推進担当による「気になる」ポイント解説~Musubiセミナーレポート
2022年12月13日、株式会社カケハシは、プレミアムセミナー「ついにはじまる、電子処方箋!~医療DX令和ビジョン2030を考える~」を開催しました。 2023年1月の電子処方箋の運用開始が、間近に迫っています。今回のセミナーは、厚生労働省の電子処方箋サービス推進室室長である伊藤建氏と、薬局経営者でもある医師の狭間研至氏をお迎えし、調剤薬局やその経営者・薬剤師が電子処方箋の運用開始にどのように備えるべきか、議論を深めました。 今回は、セミナーの内容を抜粋してお伝えします。 |
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目次
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- 1.医療DXにおける「電子処方箋」の位置づけ
- 2.薬剤師さんには、医療DXを最大限活用してほしい
- 3.よくある疑問「オンライン資格確認と電子処方箋の関係性は?」
- 4.電子処方箋が可能にする「重複投薬・併用禁忌の自動チェック」の仕組み
- 5.電子処方箋とマイナ保険証の関係性
- 6.電子処方箋とサイバーセキュリティ対策
- 7.電子処方箋モデル事業の「今」
- 8.電子署名は?HPKIカードは?カードリーダーは?
- 9.薬剤師のみなさんと、一緒に考えていきたいこと
- 10.調剤薬局経営における、電子処方箋の運用開始のインパクト
- 11.ディスカッション:電子処方箋で薬剤師の仕事はどう変わる?
- 12.参加者アンケート「国に対して期待していることは?」
当日の様子は、オンデマンド動画で期間限定にて配信しております。
<登壇者>
伊藤 建 氏(いとう・たける)
厚生労働省大臣官房企画官(医薬・生活衛生局併任) 兼 電子処方箋サービス推進室室長
狭間 研至 氏(はざま・けんじ)
PHB Design株式会社 代表取締役社長
一般社団法人 日本在宅薬学会 理事長
中尾 豊(なかお・ゆたか)
株式会社カケハシ 代表取締役社長
中尾:
カケハシの中尾です。
「電子処方箋は聞いたことはあるけど、何がどう変わるかわからない、どんな準備をすればいいのだろう」「電子処方箋が始まった後、どんなオペレーションになるのか、そしていかに価値を発揮していくのか」。電子処方箋について、多くの薬局経営者、薬局薬剤師の方からすると、わからないことずくめかもしれません。
今日は皆さんが気になるポイントを解消していきたいと思っています。
医療DXにおける「電子処方箋」の位置づけ
伊藤氏:
厚生労働省電子処方箋サービス推進室の伊藤です。
医療DXの動きについては、マイナンバーカードと健康保険証の一体化やオンライン資格確認システム(オン資)など、様々な報道がされてきています。電子処方箋もそれらの一つの柱として位置づけられています。
政府としてデジタル化の取り組みに力を入れる中、大きな論点の一つが、2040年における人口動態の変化にどう対応していくかです。高齢者の人口の伸びが落ち着く一方で、現役世代が急速に減っていくと予測されています。
これに関連し、今年10月には総理大臣を本部長とする「医療DX推進本部」が立ち上がりました。三つの柱として、全国医療情報プラットフォームの創設、電子カルテ情報の標準化、診療報酬DXが位置づけられております。
薬剤師さんには、医療DXを最大限活用してほしい
伊藤氏:
薬局薬剤師DXについては、2015年の「患者のための薬局ビジョン」の「対物から対人へ」という方針が出ています。2022年7月には「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」でとりまとめた報告書では、医療DXの大きな動きを薬剤師としても最大限活用していくべきという論点を投げかけています。
電子処方箋で重複投薬や併用禁忌チェックの自動化などもできますので、薬剤師側から積極的に情報発信していく、患者さんへのフォローアップや、デジタル技術を活用したオンライン服薬指導も含めて進めていただくことが重要だと思っています。
お薬手帳のアプリについては、年度内にガイドラインを策定するため、準備を進めております。「電子処方箋があると、お薬手帳はいらなくなるのではないか」というご指摘もありますが、やはりOTC医薬品など、全てについてカバーすることはできないので、お薬手帳アプリでカバーしていただくのを目指し、モデル事業も行っています(図)。
登壇資料より抜粋。
よくある疑問「オンライン資格確認と電子処方箋の関係性は?」
伊藤氏:
ここからは電子処方箋の紹介になりますが、「オンライン資格確認と電子処方箋って、何か別のものを作ってるんじゃないか」というご指摘をいただくことがあります。基本的にはオンライン資格確認が医療DXの基盤で、そのネットワークを介して電子処方箋のデータをやり取りする仕組みになっています。具体的には、社会保険診療報酬支払基金及び国民健康保険中央会が電子処方箋サービスの運用主体になり、「オン資」のネットワークを介し、医療機関と薬局がデータをやり取りします。
ですので、電子処方箋をお使いいただくためには、このオンライン資格確認を導入していただくことが前提になります。
なお、オンライン資格確認では今後、参照できる医療情報が増えていきます。2022年9月には、薬剤情報、特定健診情報へと順次拡大をしています。2023年1月から電子処方箋の情報も見られるようになり、健診情報も、2023~2024年度中に順次拡大していきます。
また、在宅医療において、従来は健康保険証で本人確認をしていた場面で、ご本人同意の上、個人のスマホを介して本人確認を行っていく仕組みも検討を始めています。
電子処方箋が可能にする「重複投薬・併用禁忌の自動チェック」の仕組み
伊藤氏:
電子処方箋のメリットは、医療機関、薬局、患者さん、それぞれにあると考えております。
特に薬局の方は、ご自身の周りの医療機関がどれくらい電子処方箋を進めていくかが、関心があるところではないでしょうか。診療科によっては「処方箋の枚数が少ないのでメリットがないのでは」というお話をいただくことがあります。
ここで申し上げておきたいのは、特定の医療機関や診療科における過去の履歴だけではなく、「他でどういう薬をもらっているか」という情報が、それぞれの診療において重要という点です。
また、電子処方箋の導入によって、直近の処方情報も閲覧できるようになります。直近の情報が重複投薬や併用禁忌のチェックには重要で、これらのデータを使って自動でチェックをかけるような仕組みになります。
具体的には処方箋を登録する段階、調剤をする段階、この2段階で重複投薬、併用禁忌の自動チェックがかかります。これは、データベースの医薬品コードをベースに、患者さんの直近の処方調剤歴とを照らし合わせチェックをかける仕組みになっています。機械的にチェックをかけた結果、このような画面(図参照)が、お使いいただく電子カルテや薬歴システムに出てきます。
登壇資料より抜粋。
電子処方箋とマイナ保険証の関係性
伊藤氏:
マイナンバーの保険証利用については、現在はまだまだ少ないこともあり、来年1月の電子処方箋の運用開始段階では、健康保険証でも利用ができる仕組みになっています。
ただし、個人保護の観点から、過去のお薬情報は見られないような制限がかかりますので、やはり現場の薬剤師の皆さんがメリットを感じていただくには、患者さんがマイナ保険証を持って来局し、過去の履歴を見ていただくことにあるかと思います。
紙の処方箋か電子処方箋かについては、オンライン資格確認の端末で選択ができる画面に変わります。患者さんが紙の処方箋を選んだとしても、データ自体は蓄積されていく仕組みとなっておりますので、そのデータをもとに、重複投薬のチェックもかかりますし、患者さんが紙の処方箋を受け取っても、マイナポータル経由で履歴を見ることができる。そういった仕組みになります。
登壇資料より抜粋。
薬局経営上のメリットを1点申し上げますと、自動転記ができるので、手入力の業務は減りますし、今後は処方箋の管理スペースがいらなくなります。
登壇資料より抜粋。
患者さんには引換番号を印字してお渡しすることにしております。この引換番号をあらかじめ、薬局側にお伝えしていただくと、薬局で電子処方箋のデータベースにアクセスでき、調剤を開始できる仕組みになっています。この伝え方は、電話でも結構ですし、スマホを使ったチャットなどを使っていただいても結構です。
登壇資料より抜粋。
また、オンライン診療でも電子処方箋のシステムを活用していただけます。今、0410の事務連絡で処方箋のFAX送信を行えるよう措置しておりますが、電子処方箋があれば、データを直接取れますので、このFAX送信は不要になります。
これは訪問診療でも同じようなことだと思っております。訪問診療の場合も医療機関や薬局が直接、電子処方箋管理サービスにアクセスし、情報を受け取ることができます。
登壇資料より抜粋。
電子処方箋とサイバーセキュリティ対策
伊藤氏:
また、この電子処方箋をめぐって、サイバーセキュリティ関連のご質問を非常に多くいただきます。我々としてもしっかりサイバーセキュリティ対策は進めていきたいと思っています。
具体的には2022年3月に改定した『医療情報システムの安全管理に関するガイドライン』に、アンチウイルスソフトウェアを導入していただく、情報を限られた人だけがアクセスできるような体制を整える、そういった対応・対策がまとめられます。
1点申し上げておきたいのは、オンライン資格確認のネットワーク自体、セキュアな通信環境が実現できています。ただ一方で、今回、処方情報を、医療機関側や薬局側の両方で出し入れするという行為が行われますので、電子カルテ、薬歴システム、こういったところのセキュリティ対策が非常に重要になります。これは医療機関だけではなくて、薬局側もしっかり対応していただく必要があります。
電子処方箋モデル事業の「今」
伊藤氏:
2022年10月末から始まった電子処方箋のモデル事業について、最新の状況をご紹介します。モデル事業を4地域で始まり、先週(※)の段階で27施設まで増えました。
処方箋枚数は、11月末時点で3万枚を超えました。
この状況について説明しますと、10月末からは紙の処方箋だけを発行していたため、患者さんから見ると全く変わらない状態でした。第1段階として、まず医療機関側で登録した情報が処方箋のデータベースに載っているかを確認し、このデータが薬局側に正しく伝わっているか、取り出せるか、を確かめていました。これが順調にいったため、先週金曜日から第2段階として、須賀川地域(福島県)で患者さん側が電子処方箋も選べるようになりました。
地域によって参加事業者が異なりますので、早いからいいとか遅いから駄目だということはなく、地域ごとに事業者のペースに合わせています。重要なのは、大きな、致命的な問題が起きてないかを、丁寧に検証しながら進めていくことです。
※本セミナーは2022年12月13日に開催。
このモデル事業における事例についてご紹介します。
登壇資料より抜粋。
モデル事業につきましては、やはり実際に動かしてみてどうか、今日ご参加されている方も非常に気になるところかと思いますので、使っている人の声なども今後ご紹介したいと思っています。
また、電子処方箋の導入意向のアンケートも行っていて、薬局の導入意向が75%と非常に高くなっています。
登壇資料より抜粋。
電子署名は?HPKIカードは?カードリーダーは?
伊藤氏:
また、来年の1月の電子処方箋の運用開始には間に合わなかった機能である、リフィル処方箋機能の拡充なども進めていきます。
HPKIカードについては、最大5,500円の補助を利用できるのと、またカードレス署名の実装も進めております。カードレス署名であれば、カードリーダーも不要になりますので、負担は軽くなるのではないかと考えております。その他、施設単位の一括申請も始めています。
電子処方箋に対応しているかどうかは、厚労省のホームページで公表をしたいと思っております。例えば、「自分の住んでいる近くの医療機関や薬局のうち、どこが対応してるのか」もご覧いただける仕組みも検討しております。
薬剤師のみなさんと、一緒に考えていきたいこと
伊藤氏:
私は電子処方箋に関するお話をする時、電子処方箋ではない話題から始めるようにしています。
なぜかと言いますと、電子処方箋の運用開始により、特に薬剤師側から見られる情報が増えていきますが、薬剤師さんが提供できる付加価値とは一体どこにあるかを、皆さんと一緒に考えていくのが非常に重要だ、と考えているからです。大きなポイントは、「情報量が増えるのは確かにいい。ただ、増えた情報量をしっかり活用できるのか」だと思っています。
登壇スライドに「リスキリング」という言葉を書きましたが、そのような取り組みを通じて、データ分析に基づいた患者へのアドバイスができる、といったことも、今後非常に重要になると考えております。今後の薬剤師のあり方も、こういったところにより注力するといいのではないかと、個人的には考えています。
登壇資料より抜粋。
調剤薬局経営における、電子処方箋の運用開始のインパクト
狭間氏:
今回の参加者の方々は、調剤薬局の経営や運営をされている方が多いと思います。そこで、調剤薬局経営における、電子処方箋の運用開始のインパクトについて簡単にお話しします。
従来の薬局経営の重要なポイントは、医療機関の門前という立地を抑え、患者さんに紙の処方箋を持ってきていただくことでした。この紙の処方箋が電子化されるということで、そのインパクトは、患者さんの受療行動を変える上においても極めて大きいと思っています。
もう一つは調剤報酬について。従来は棚から薬を取り揃えることと、患者さんに説明し記録を残すこと、この二つが薬剤師さんの評価軸でした。2015年、「患者のための薬局ビジョン」で立地から機能、物から人という方針が出ましたが、おそらく令和6年度の改定でもこの大枠が変わることはないでしょう。
処方箋が紙から電子になることで、患者さんの行動パターンに大きな変容が起こるでしょう。一方、薬局のフローというのは実は大きくは変わらず、その中で変わるのは「薬剤師さんがかなりの量の情報を手に入れることができる」という点です。
ですから、いかに患者さんに刺さる話をしようか、と思ったら、いわば目を皿のようにして、得た情報を頭に入れて臨まないといけない。そうしないと患者さんは「私のこと何も知らないの」と感じるようになるかもしれません。また、得た情報を基に、しかるべきタイミングで服用後のフォローを行うことが重要になります。
もし、「電子処方箋が始まっても、変わらないんじゃないの」と思っておられるとすると、それは結構問題です。今回始まる電子処方箋は、この顧客側の視点、それから薬局の内部の視点という観点で、大きな変化をもたらすと思っています。
ディスカッション:電子処方箋で薬剤師の仕事はどう変わる?
中尾:
薬局薬剤師さんの業務として、飲み合わせや重複投与の確認があり、この点は医薬分業の理由の一つでもあったと思います。
そこでお二人にお伺いしたいのですが、テクノロジーが発達する中、これから薬局薬剤師さんに求められる仕事はどう変わっていくと考えますか。
狭間氏:
併用禁忌の確認などはまさに対物業務ですよね。
薬剤師さんが、服用後のフォローをして、アセスメントして、一緒にフィードバックをする。その結果を踏まえ、次回の調剤管理の先確認のタイミングで、もう一度先生から出た処方で、自分の出したトレーシングレポートの内容がきちっと反映されてるのかなども見ながら、処方箋に付随してくる様々な情報を見る。いわば「治療団」の一員になっていきますよね。
これこそ対人業務であり、薬剤師の、専門家としての立ち位置がはっきりするのではないかと思います。
伊藤氏:
医師へのフィードバックや提案は、重要になってくると思います。
今回の電子処方箋は、あくまでも調剤済みにする時の1回限りの記載で、トレーシングレポート機能はないのですが、文字制限がない自由記載欄があります。薬剤師の皆さんには、重複投与、併用禁忌に限らず、患者の気になった点をお好きなだけ書いていただくと、医師側にそれがフィードバックされます。
また、重複投与、併用禁忌の自動チェックがかかる仕組みは、患者さんの過去の履歴が(システムに)入っていなければわからないので、まずはしっかり普及・導入を進めていくことも大事ですし、これ(自動チェック)が完璧だと思われていると、実はそうでもないということもあります。
まずは院外処方で始めますが、将来的には院内処方への拡張も、今後は検討したいと思っています。
狭間氏:
「処方箋が電子化される」と聞いて、デジタルの話だと考えてしまうと、方向を見誤ると思います。これは、薬剤師さんの対人コミュニケーションのあり方、患者さんとのコミュニケーションをどうするのか、につながるでしょう。
これまで診療は対面原則、服薬指導は対面原則で、診療報酬制度でも差があり、前提条件も厳しかった。そこから、オンライン診療、お薬宅配などが広がり、薬局に患者が来局しないケースが増加すると思います。
調剤薬局としてやってきた中で、処方箋のあり方が紙ではない形となり、顧客のニーズが変わる。顧客の行動が変容し、それに対応すべくビジネスモデルが変わっていく。
そんなことが、これから業界でも起こるのではないでしょうか。
中尾:
寄せられた質問で、気になるところはありますか。
伊藤氏:
今回の電子処方箋は、基本的にはどのレセコン、どの電子薬歴を使っていただいても問題ありません。「何か特定のものではないと使えない」という話は、実は全くなく、そこはご安心していただきたいと思います。
参加者アンケート「国に対して期待していることは?」
中尾:
では最後に、参加者の皆さんが国に対して推進を期待することをアンケートで尋ねてみましょう。
伊藤氏:
今日、このような説明の機会を頂く中、感じたことがあります。
医療DXはややもすると、「国から何か降ってくるのを待とう」という発想になるかもしれませんが、「医療現場でこれが困ってるから、こういうところをデジタル化してほしい」とか、「こういうことをやるべきだ」という声を上げていただき、一緒になって医療DXを前進させていくべきだと思っています。
国だけが頑張っても解決せず、どのように運用を変えていくのか、どのようにあるべきなのか、その答えは現場にしかないんだろうと思っています。「国民への広報を」ということなので、いろんなところでやっていこうと思っていますし、厚生労働省には電子処方箋に関するチャットボット(オンライン資格確認・医療情報化支援基金関係 医療機関等向けポータルサイトにアクセスし、チャットボットのシカク君をクリック)もありますので、そういったところに声を寄せていただければと思います。
一緒に議論しながら考えていきたいです。
中尾:
本日はありがとうございました。
更新日:2022-12-23