Pocket Musubiの活用事例、学会で発表~フォローアップ×ICTに注目集まった日本薬剤師会学術大会
2022年10月9、10日、仙台市で第55回日本薬剤師会学術大会が行われ、全国各地の薬局で創出された研究成果が共有されました。中でも目立ったのが、ICTツールを活用した服薬期間中フォローアップに関連した議論でした。 金沢大学と石川県白山市、石川県内に本社を構える株式会社コメヤ薬局並びにてまりグループ(株式会社スパーテル、株式会社EHMメディカル)が産官学連携で取り組む「アポテカプロジェクト」では、『Pocket Musubi』を活用した服薬期間中におけるフォローアップの効果に関する研究を行っています。コメヤ薬局の薬剤師、山下千佳子先生はこの研究の中間報告を踏まえ、同大会の口頭発表の場に登壇。服薬期間中フォローアップの事例を紹介しました。 服薬期間中フォローアップによって、患者さんとどのようなコミュニケーションが生まれ、アウトカムが期待できるのでしょうか。本記事では、口頭発表の内容を中心にお伝えします。 |
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おさらい:服薬期間中フォローアップの義務化とは
2019年12月に公布、2020年9月に施行された改正薬機法で、それまで努力義務とされていた薬剤の使用期間中のフォローアップが義務化されました。また、令和4年度の調剤報酬改定ではこれまで「薬剤服用歴管理指導料」として評価されていた服薬管理にかかる業務が「服薬管理指導料」に刷新され、「患者の薬剤の使用の状況等を継続的かつ的確に把握するとともに、必要な指導等を実施すること」という算定要件が新たに追加されました。この点からも、フォローアップの重要性が読み取れます。
慶應義塾大学と薬局団体連絡協議会の調査によると、2021年8~9月、全国34都道府県の318の薬局のうち89%で、法制化後のフォローアップ経験があったと回答しています(※)。また、第55回日本薬剤師会学術大会でも口頭発表やポスター発表などでフォローアップの事例が数多く共有されたことからも、全国の薬剤師が、より良いフォローアップに向けた取り組みを本格化させていると言えそうです。
※参考資料
保険薬局における薬剤師による患者フォローアップの実態調査と関連記事
https://confit.atlas.jp/guide/event-img/pharm142/27G-pm-16/public/pdf?type=in
https://www.dgs-on-line.com/articles/1171
繁忙な日常業務の中、いかに確実にフォローアップを行うか
第55回日本薬剤師会学術大会で『Pocket Musubi』を活用した事例が発表されたのは、「演題:質問自動送信型アプリを利用した薬局薬剤師による調剤後フォローアップの効果-大学×薬局による臨床研究実施の試み-」で、登壇者は株式会社コメヤ薬局(本部・石川県白山市)の山下千佳子先生です。
冒頭、研究と発表の背景について、山下先生は以下のように述べました。
2019年薬機法改正を受け、繁忙な薬局の日常業務の中でフォローアップを確実に実施するにはどうすればよいか、課題となっていました。そこで、フォローアップにおけるICTの活用に注目し、『Pocket Musubi』を利用した継続的フォローアップが患者に与える効果と、個別事例について検討しました。
『Pocket Musubi』は、患者が薬局でLINEの友だち登録をし、処方内容をQRコードで読み込むと、処方内容に適した状況確認の質問が自動配信されます。やり取りを踏まえ、問題の可能性がある場合、薬局にアラート通知が届きます。
本研究では、研究期間中に石川県内3法人(33薬局)に来局し、アプリ登録をした患者とこの薬局に勤務する薬剤師にアンケート調査を行います。アンケートは1年間を通じて行いますが、今回の発表は患者に対する2回のアンケート(2回目は2カ月目を目安に実施)の中間報告と、事例報告となりました。
なお患者背景は118名中26名が65歳以上(22.0%)で、男性より女性の登録者が多くなっているとのことです。
山下先生
副作用回避、保管方法の改善、患者の不安に対応…アウトカムにつながった事例の数々
発表の中で山下先生は、患者の副作用回避や不安の解消につながった4事例を紹介しました。
発表スライドより抜粋
【事例1】スギ花粉エキス錠を服用している40代男性です。
「薬を飲んでから2時間以内に入浴することがありますか?」「使用した後5分以内にうがいや飲食をすることはありますか?」に「ときどき」との返答があったため、薬局にアラート通知が届きました。
薬剤師が、副作用の発現リスクが高くなること、効果の減弱があることについてアプリ上でフォローアップしました。この後、同じ質問でもアラートが通知され、同様にフォローアップを継続した結果、6週間後には症状の改善が認められ、副作用回避と確実な効果発現に貢献できました。
発表スライドより抜粋
【事例2】フルオロメトロン点眼薬を使用している60代女性です。
「容器を倒して置いておくことはありますか」という質問に対し、「はい」という回答があり、薬局にアラート通知が届きました。
薬の置き方によって出にくくなる可能性や、使用前に振り混ぜると問題なく使用できることをアプリ上でフォローアップしました。これに対して患者から「使用する前に振り混ぜることは知っていたが、保管方法も今後気を付ける」と返信があり、保管方法の改善につながりました。
発表スライドより抜粋
【事例3】
ファムシクロビル錠とロキソプロフェン錠を服用している40代女性です。
「お薬を使用して気になることはございますか」との質問に対し「数日前に帯状疱疹の治療を受けていたが、他の箇所に痛みが起きている。痛み止めを使用していれば良いか」と回答があり、アラートが通知されました。
この方は、治療開始から2週間が経過していたため、帯状疱疹後神経痛の可能性があることや、痛みに合わせた鎮痛剤があり、今のもので改善しなければ受診したほうが良い、というフォローアップを行いました。1週間後、痛みの消失を確認し、患者の不安に対応し、体調変化の把握もできた事例です。
発表スライドより抜粋
【事例4】
インスリンリスプロ(遺伝子組換え)キットを使用している50代女性です。
「最近ふらつくことはありませんか」「最近力が入りにくいと感じることはありませんか」という質問に「ときどきある」との返信があり、アラート通知がありました。
この患者はたまたまアラート通知後に来局があったので、対面で低血糖発現時のスケール調整についてドクターの指示のもと行っていることや、低血糖時対応についてのフォローアップを行いました。服薬期間中の体調管理の対応と不安解消に貢献できた事例です。
また、2回のアンケート(77件)では、「私は自分の生活や体調に合った『くすり』の情報を得ている」の項目で有意な差があり、改善がみられたと言います。また今回の発表は中間報告となり、本研究は継続して実施されるとのことです。
これらの結果を踏まえ、山下先生は以下の通りまとめました。
考察~Discussion
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ICTの活用で実感する、手段の「幅」の広がり
発表を担当した山下先生に、アプリを活用した服薬期間中フォローアップを通じて感じることについて、改めてお尋ねしました。
「電話のみを使っていた場合、自宅にかかってきた電話は取らないようにしていたり、営業時間内の対応が難しかったりする患者さんもおられて、フォローアップの限界がありました。ICTを活用することでコミュニケーションの手段の幅が広がっています。
また、アラートの内容を踏まえて薬歴を確認して準備する余裕があるのも、電話との違いです。いつ、どのような方法でどんな内容についてフォローアップできるかをしっかり考えて患者とコミュニケーションを取ることで、フォローアップ内容の充実も図れます」
なお本研究は「アポテカプロジェクト」の一環として行われたもので、同プロジェクトでは地域医療を支える薬剤師養成などにも取り組んでいます。
コメヤ薬局の長基健人副社長は「地域における今後の薬局の役割を考える上でも、社外の方々と連携し、成長していくことは重要です。今回のように日ごろの取り組みを外部に向けて発表する機会をいただけたことは、山下先生だけではなく後輩の薬剤師にとっても刺激になりました」と話していました。(了)