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テクノロジーで明らかになる薬剤師の介入価値|第57回日本薬剤師会学術大会スイーツセミナーレポート

2024年9月22日~23日に開催された「第57回日本薬剤師会学術大会」。 23日(月・祝)に行われたスイーツセミナーでは、カケハシが「薬剤師の介入価値を明らかにする新常識」をテーマにセミナーを実施しました。本記事は、当日のセミナー内容を一部抜粋してお伝えします。

登壇者とテーマ
演題:「薬剤師の介入価値を明らかにする新常識~現代におけるテクノロジーの進化とビッグデータの可能性とは」

座長:
中尾 豊 / 株式会社カケハシ 代表取締役社長

演者:
田口 真穂 氏 / 横浜薬科大学 レギュラトリーサイエンス研究室 准教授・博士(薬学)
演題:「薬剤師の職能価値の見える化~リアルワールドデータ解析事例から紐解く~」
 
工藤 知也 / 株式会社カケハシ 医学・薬学コンテンツ開発チーム マネージャー 博士(医学)・薬剤師
演題:「クオリティ・インディケーターを活用した薬歴ビッグデータによる服薬指導の改善」

登壇サマリー



カケハシ中尾

 ・カルテや薬歴のクラウド化により、実臨床データに基づいたエビデンスを創出できる時代に

 ・エビデンスを基にした制度・報酬設計により、価値ある医療の提供が可能に


田口 真穂 氏

 ・医療の環境変化がすすむ中で、リアルワールドデータの解析により、ポリファーマシーの実態など実臨床での事象が可視化できる

 ・薬局薬剤師の介入の質は、すでに活用されているモデルを参考に、アウトカムに寄与する実践ができているかどうかの「プロセス」に注目して評価することが望ましい

 ・国としても対人業務における質の評価指標を開発しようとしている


カケハシ工藤

 ・クオリティ・インディケーター(QI)により、薬剤師の服薬指導の質を相対的に見える化し、振り返りや業務の質向上に活かすことができる

 ・電子薬歴のデータを活用することで、QIの社会実装に向けた障壁となっていた算出の手間を大幅に削減できる

 ・QIと服薬アドヒアランスとの相関性も示唆されている

 ・QIは、電子データをベースにした「eQI」が主流となり、現場活用が可能に

目次

目次[非表示]

  1. 1.データによりエビデンス創出が可能に
  2. 2.リアルワールドデータから紐解く医療需要の変化
  3. 3.QIが薬剤師の未来を照らす羅針盤に

データによりエビデンス創出が可能に

近年、在宅医療や健康サポートへの対応など、薬剤師の業務はますます多様化し、対人業務のさらなる充実が求められています。しかし、薬剤師が日々取り組んでいる服薬指導やフォローアップの実態、成果は客観的に捉えづらいという課題がありました。株式会社カケハシ代表取締役社長の中尾(以下、中尾)は、この課題に対し、薬剤師の介入価値を見える化する必要があると述べました。

中尾は、より良い医療を形作るためには、ファクトに基づいたエビデンスが必要であると強調しました。研究領域においても、制度や報酬を設計する行政の領域においても、数十年にわたってエビデンスの重要性がうたわれてきましたが、これまでは臨床現場におけるデータの収集自体が非常に困難でした。

しかし、この状況は、カルテや薬歴などのクラウド化によって大きく変化しています。薬剤師から患者さんへどのような介入が行われたか、またその後の患者さんの行動や検査値はどのように変化したかについて、データから解析することが容易になったのです。中尾は、「どんな疾患に対して、どのタイミングでどのような情報を患者さんと共有すると、アウトカムが改善するのか、検証が容易になる時代だ」と述べました。

実臨床におけるデータである「リアルワールドデータ」が蓄積されると、実際の現場におけるファクトに基づいた研究が可能になります。その研究の結果生まれたエビデンスが制度・報酬設計に活かされると、現場の薬剤師がよりよい介入を実践しやすくなり、価値ある医療の提供につながるのです。

中尾は、薬剤師の介入価値を測定するための指標として「クオリティ・インディケーター(QI)」を紹介しました。QIは、特定の疾患に対して行うべきケアがどれだけ実施されたかを定量化して示すものです。
この指標を通じて、臨床現場で薬剤師によってどのような介入が行われたかが可視化できるようになり、アウトカムとの相関を検証することも可能になると述べました。

リアルワールドデータから紐解く医療需要の変化

横浜薬科大学レギュラトリーサイエンス研究室の准教授・博士である田口氏は、リアルワールドデータの解析事例を交えながら、薬剤師の職能価値の見える化について講演を行いました。

国内で急速に高齢化が進む一方、医療を支える労働人口が減少し、地域によって抱える課題も多様化する中、従来の医療体制では十分な治療やケアを提供できなくなる未来が迫っています。田口氏は、デジタルトランスフォーメーション(DX)によって効率化を図るとともに、サービス提供者と受け手双方にとってWin-Winな医療を実現することが望ましいと述べました。

次に、地域医療構想と地域包括ケアシステムにおける薬局の役割について説明がなされました。地域医療構想のもと、病床が削減傾向の中、地域包括ケアシステムがさらに進展しています。患者さんが可能な限り自宅で生活できるよう支援することがよりいっそう求められており、薬局はその中で薬物療法を安全かつ有効に提供する役割を担っています。

また、薬局では機能分化が進んでおり、地域連携薬局や健康サポート薬局、専門医療機関連携薬局など高度な専門性を持つ薬局が増えています。田口氏は、この状況下で、どの薬局がどのような機能を有しているのか、国民にわかりやすく提示していく必要性もあると述べました。

さらに、田口氏の専門領域である、リアルワールドデータの解析事例も複数紹介されました。

現在、行政・医療機関・企業・個人など、さまざまな場所で膨大なデータが生まれています。医療におけるリアルワールドデータの活用例として、ここではNDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)から解析したポリファーマシー(多剤投与)の実態調査などが挙げられました。

調査結果から、高齢者の多くが複数の薬を服用している実態が明らかになり、特に80歳以上では、3人に2人は6剤以上(そのうち1人は10剤以上)の薬を服用していることがわかりました。

こうしたポリファーマシーの問題や、副作用に注意を要する抗がん剤を使用する患者さんに対応するため、薬局薬剤師による対人業務の充実が期待されていることも強調されました。

それでは、薬局薬剤師が行う対人業務の質はどのように評価していくのでしょうか。
田口氏は、医療を3つの側面から評価する「ドナベディアンモデル」を紹介しました。

田口氏は、アウトカムの変化は薬剤師の介入以外が要因となるケースもあることから、「薬局薬剤師の介入の質の評価においては、このうち『プロセス』の部分を評価することが望ましいとされる」と述べました。
また、そのプロセスの評価においてクオリティ・インディケーター(QI)が有効であることも強調しました。

「アウトカムの実現に寄与する科学的根拠というのは、つまるところガイドラインです。プロセスの評価とは、ガイドラインに定められていることをきちんと薬剤師さんが実践しているかどうかであり、それをスコア化したものが、先ほど中尾さんからも紹介のあった『クオリティ・インディケーター』です。」

最後に田口氏は、自身が研究代表者となっている今年度の厚労科研の研究事業(※)にて、薬局におけるQIの開発を進めていることにも触れ、「国としても、薬局薬剤師が注力している対人業務をきちんと評価していこうという動きがある。この研究を通じて、質が高い対人業務をきちんと評価できる適切な手法を確立したい」と締めくくりました。

(※)正式名称:令和6年度厚生労働科学研究費補助金 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究事業「薬剤師の対人業務の評価指標開発ため研究(24KC1001)」

QIが薬剤師の未来を照らす羅針盤に

続いて登壇したのは、カケハシに所属する薬剤師の工藤です。工藤は、Musubiのデータの医学的・薬学的活用に関する研究を行っており、クオリティ・インディケーターを活用した服薬指導の改善をテーマに講演を行いました。

工藤は、QIを一言で表現すると「医療の質を示す指標」であると述べました。QIは、提供されるべきケアがどれだけ行われているかを示すもので、シンプルな割り算で算出されます。

例えば、急性心筋梗塞で入院した患者を分母に、そのうち入院後2日以内にアスピリンもしくはクロピドグレルが投与された(ガイドラインに沿った医療が提供された)患者の割合を示すことで、患者が受ける医療の質を可視化します。

この指標は、大きな病院などではすでに導入されている事例があり、薬局でも活用することができます。

工藤は、QIについて「業務を相対的に可視化するという点に非常に大きな価値がある」と強調しました。QIを算出することにより、薬剤師個人や各店舗が、全体の中でどういう位置にあるのかということを可視化し、改善に役立てることが可能になります。

さらに工藤は、田口氏の講演でも紹介された、厚労科研の研究事業に触れ、「研究領域にとどまらず、QIを社会実装しようというフェーズまで来ている」と述べました。

しかしながら、QIを社会実装するには、算出にかかるマンパワーの課題があったとも指摘します。これまで、QIのスコアを算出するためには、1件1件の薬歴を確認しながら、特定の処方があった患者の数やガイドラインに沿った服薬指導が行われた数をカウントしなければなりませんでした。

そこで工藤が注目したのが、電子薬歴の服薬指導支援機能です。多くの電子薬歴には、服薬指導の内容をサポートする機能が備わっており、その記録を辿ることで、効率的にQIを算出できるといいます。それでも、こうしたビッグデータから正確なQIを算出するためには、いくつかのステップを踏む必要があるため、その手法を徐々に確立している段階にあるとも述べました。

また、講演では、Musubiのユーザー法人を対象に実施している「QIワークショップ」での事例も紹介されました。ワークショップでは、全国の薬局におけるQIスコアの平均値と法人の各エリアごとのQIスコアを比較しており、それをもとに、それぞれの薬局が抱える課題や改善ポイントについて活発に議論がなされています。実際に、数か月のうちにQIスコアが大きく改善する事例もあり、工藤は、「QIは、薬局薬剤師の未来を照らす羅針盤だということを強く感じる」と、期待をにじませました。

工藤は、薬剤師としての自身の経験も交えながら、「業務の質が見える化できないと、振り返りがしづらい。振り返りがしづらいから、成長速度を上げられないということがあった。しかし、QIのような指標があることで、たった数か月でこれだけ服薬指導の内容が変わってくる。これは、今よりもさらに患者さんに価値を提供するということにつながる」と述べました。

さらに、工藤はQIのスコアと患者さん自身のアドヒアランスの相関についても研究を進めています。研究結果から、QIのスコアが高い薬剤師から服薬指導を受けた患者は、MPR(服薬アドヒアランスを示すひとつの指標)が高くなる傾向にあることが示唆されました。工藤は、「QIスコアが高い薬剤師が、より患者さんの行動を変化させるということを示唆している」と強調しました。

また、日々目覚ましい進化を遂げるAIを活用すれば、薬歴のフリーテキストからより現場の実感に近いQIを算出できるようになる可能性もあると述べました。
最後に、工藤は「QIはこれから電子データを基本とした『eQI(electric QI)』の時代を迎える」とし、そう遠くない未来に、QIを現場で活用できる時代が訪れるだろうと述べ、本セミナーを結びました。


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