ー全店舗の薬剤師を対象にトレーシングレポートのコンテストを企画したのは、亀井先生だったと伺いました。亀井先生は社内でどのような役割を担い、なぜこの企画を始めようと思ったのでしょうか。
亀井さん(ラウンダー):
私は2021年末からこの法人で勤務しています。主に複数の店舗を回る「ラウンダー」をしながら、全社で取り組む地域貢献活動などの企画・実施をしています。
薬局と病院の連携が重要になる中、トレーシングレポートは「有効なツール」だと考えてきました。ただ、私がこの法人に転職したころは全社内で共通したトレーシングレポートに対する考え方が存在しておらず、何かしら取り組みたい、と考えました。
亀井さん:
たまたまですが、私は以前の勤務先でも『Musubi』を使っており、転職したこの法人では、ちょうど全店舗で『Musubi』導入がされたところだったのです。
そんなこともあり、私自身が各店舗から「どの機能を使ったら書けるか」というハウツーにも答えられる立場であったこと、さらに『Musubi』のカスタマーサクセスのスタッフからの提案もあり、「トレーシングレポートに関する全社企画を始めよう」と思いました。
真帆さん(代表取締役):
私たちの法人内の店舗は、県庁所在地の薬局もあれば、在宅に力を入れる薬局もあります。私は経営者として、国の掲げる「薬局ビジョン」をはじめとした変化の中、地域の医療機関などと連携していかに薬局経営をしていくのが最善かを考えてきました。
トレーシングレポートに関する全社企画は、『Musubi』の分析機能を使えば各店舗の薬剤師業務や加算取得状況が本部から確認もできることが後押しして、「ぜひやろう」ということになりました。
ー具体的には、どのように企画をすすめたのか聞かせてください。
亀井さん:
まず、各店舗の管理職が集まる場で、トレーシングレポートの作成に力を入れていく方針と、具体的にはすべての薬剤師が1週間に1枚は書いていくことを説明しました。とはいえ、「何を書けばいいのか」という内容への疑問の声も聞かれましたし、特に声は上げなくても、ルーティーンとは異なる業務が始まることに、悩んでいるような様子もありました。
ーそこで、亀井さんはどのように働きかけたのですか。
亀井さん:
取り組みに何かの壁を感じていそうであれば、個々にコミュニケーションを取るようにしました。「他の薬剤師が書いたトレーシングレポートを見る機会がない」という声もあったので、Zoomで全店舗をつないで月1回の振り返りのミーティングを持ち、実際の事例を共有するようにしました。
この場は、各店舗の管理職の方々に一方的にレクチャーをするというより、情報共有の時間でした。
具体的には、取り組んでよかったこと(工夫した結果、奏功したこと)、取り組む中で課題と感じたこと(工夫したが、期待していたような結果に至らなかったこと)を、テキストであらかじめ答えていただき、それをもとに質問することもありました。
これによって、ただ書くのではなく、どのような工夫をしているのかまでイメージしながら議論を深められたと思っています。
ーコンテストの流れについて、詳しく聞かせてください。
亀井さん:
全店舗の常勤薬剤師に、自身が書いたトレーシングレポートの中から、一人1枚を選んでいただきました。私は集まったトレーシングレポートについて、以下の4つの観点で秀でた3件を選び、全店舗を結んだZoomのミーティングで発表しました。
ー審査するには、どのくらいの時間が必要になるのでしょうか。
亀井さん:
評価基準を設けて審査したので、審査自体は1時間程度でした。
ーコンテストで評価が高かったのは、どのような内容でしたか。
亀井さん:
表彰対象となった3件をご紹介します。
門前の |
内容 | 亀井さんからのコメント |
---|---|---|
耳鼻科 | 抗原検査で陽性となった患者さんの体調などを聞き取って、ミティキュアをいったん休薬するよう伝えた。 そのため、次回処方時に残薬があると思われる。 |
薬剤師の判断での休薬をそのままにせず、ドクターへ情報共有することは大事なこと。書き方として、経緯から書き出しているため、何を使えるかを冒頭に書くと、ドクターにより読んでもらえる。 |
内科 | 腎機能が低下しているため、セレコキシブが中止になったと患者さんから聞き取り、投与禁忌となる可能性のある薬剤を報告した。 | 文章が非常に簡潔で、ドクターに伝わりやすい。情報提供の内容が素晴らしい。腎機能による薬の可否や調節は薬剤師が処方内容に介入すべきもの。 |
内科 | お薬手帳に未記載の薬剤の重複処方について。患者さんから薬剤を持ってきていただき他院処方のものとわかったこと、背景には、家族が受け取りに行った際にお薬手帳を持っていかなかったためと推察。 患者さん本人に両方は飲まないよう服薬指導をしたことと、患者さんにかかわる介護職の方を通じて、家族に対応していただくよう伝えた。 |
薬剤師が多職種や家族を巻き込んで薬の問題の解決をした点を評価。文章は背景を踏まえているので長いが、冒頭に何を伝えたいかを記載しているので読みやすい。 |
雄紀さん(取締役):
特に3件目のトレーシングレポートは、私たちの薬局が取り組むべきと考えている「対人業務」そのものが形になっている、と感じました。
亀井さん:
このトレーシングレポートを書いた薬剤師は、コンテストでピックアップされたことについてはちょっと照れていましたが、日々の業務を見ていても「いつも取り組んでいることそのもの」というのが本音のようです。つまり、薬剤師の多職種連携を日常業務として取り組んでいる薬剤師がいるのですよね。
トレーシングレポートを通して、高いレベルで対人業務に取り組んでいる薬剤師が何をどのように行っているか......。具体的な姿が、あの1枚には現れていたように思います。
ー改めてコンテストを振り返って、印象に残っていることはありますか。
真帆さん:
コンテストに対して、各店舗の薬剤師からたくさんのコメントが寄せられたことが印象的です。
一例ですが、
「患者さんに喜ばれることを考えながら、やれることを考えていきたい」
「薬局内でもどういうことを情報提供できているかを共有しながら、役に立つトレーシングレポートを書きたい」
「他店舗の振り返りを聞いて、吸入指導の内容などはこちらでも取り入れられると感じた」「目標の達成はスタッフの協力があってこそ」
といった内容です。
ーなるほど。薬剤師のみなさんが、ただ書くだけではなく、取り組みを通じて店舗マネジメントや薬学的知識を深めることにつなげているのですね。
真帆さん:
はい、そう感じています。
対物業務の担い手が薬剤師以外にも広がる中、新たに薬剤師が求められている対人業務にしっかり取り組める人材を増やさなければなりません。一方、日常業務がある中、いかに人材育成に取り組めばいいか、課題だったのです。
今回、一枚のトレーシングレポートを通じて、対人業務の中でも弊社が大切にしている多職種コミュニケーション、その現場で薬剤師が職能を発揮している姿について、社内で議論を深められました。人材育成にもつながる手ごたえを感じています。
雄紀さん:
薬局薬剤師の対人業務を国が評価し、調剤報酬にも反映されているのだから、会社としても一人一人の薬剤師の対人業務に対するフィードバックや評価をしていかなければなりません。2024年の医療・介護のダブル改定を控える今だからこそ、トレーシングレポートの枚数以上に、「会社がスタンダードとする薬剤師」を示せたことが収穫です。
ー今日お話を伺っていると、「対人業務」という言葉が何度も出てきました。ここで改めて、対人業務で求められることや、「対物から対人へ」について感じることをお聞かせください。
亀井さん:
患者さんはもちろんですが、薬局内や他店舗の職員、地域の方はもちろん、システム提供者のような他の会社の人も含めて、幅広くコミュニケーションを取っていくことが一番必要だと思っています。
真帆さん:
患者さんから選ばれるためには、お薬を渡したいのではなく、「健康」を渡したい。対人業務はそんな思いで取り組んでいます。トレーシングレポートのコンテスト後も、薬剤師一人一人の習慣として定着しているのは、その表れなのかもしれません。
雄紀さん:
例えば、店舗内の間取りを一つとっても、「特定の薬局が拠点となって、調剤業務を担う」といった薬局の将来像を念頭に置いて考えています。これは対物業務は可能な限り効率化させ、対人業務に注力していきたいからです。極端かもしれませんが、将来は薬がなくても、コミュニケーションそのもので薬剤師の存在意義が発揮されるようになっていくかもしれませんよね。
多職種連携が日常業務となった薬剤師が育ち、この地域だからこそできる「次世代の薬局経営」に挑戦していきたいですね。(了)
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