薬局の特徴
立石さん(ひだまり調剤薬局三本松店 管理薬剤師):
私は2015年に新卒で株式会社ヴィレッジに入社し、2店舗を経て2017年から「ひだまり調剤薬局三本松店」で勤務しています。東かがわ市は香川県最東端に位置し、山を越えればすぐに徳島県という漁師町です。
立石さん:
対人業務を充実するここ数年の流れは、服薬情報等提供料の評価の見直しなど、さまざまな面で感じてきました。特に令和4年度の調剤報酬改定以前は、トレーシングレポートは頻繁に書かなくても地域支援体制加算の要件は満たせるという印象だったのですが、改定以降は「書く」ことへの意識付けが必要になっていました。
そんな中、トレーシングレポートの作成に全社をあげて取り組むことになりました。新しい業務ですし、「ちょっと面倒だな」と思わなかったと言えばうそになります。ただ、取り組んでいくうちに、トレーシングレポートだからこそ医師に伝えられることがある、と改めて感じるようになりました。
田村医師(門前のドクター):
田村内科医院は、私の父が61年前に開院しました。かつては院内処方をしていましたが、私が1999年ごろに継いで、しばらくしてから院外処方に切り替えました。
ひだまり調剤薬局さんは道路向かいに立地し、ほんの数十歩の距離ですので、スタッフの皆さんとも顔見知りです。どの薬剤師さんもトレーシングレポートを書いてくださるのですが、疑義照会とはまた違うコミュニケーションができていると感じています。
田村医師(門前のドクター):
1日3回服用する薬を処方していた患者さんがおられたのですが、薬剤師さんからトレーシングレポートで、「朝晩にした方がしっかりと続けられる」という内容の情報提供があり、さっそく1日2回朝晩で対応できる処方薬に変更をしました。
新型コロナウイルス感染症の治療薬「ラゲブリオ」についても、事前登録と同時に薬局へ相談に行きました。立石先生から「大丈夫です、準備はできています」と頼もしい言葉があり、うれしかったです。
処方後の患者さんへ電話で副作用の有無などをフォローアップいただいていますし、トレーシングレポートでも併せて伝えてくれます。新しい薬ですから、医師には難しい部分を丁寧に対応していただけているのは、本当に心強いですよね。
田村医師:
もちろん私も診察室で患者さんにいろんな質問をしますが、ゆっくりとお話をする時間って、なかなか取れないのです。薬剤師が患者さんから聞き取るさまざまな情報について、一つ一つは「小さなこと」と感じるかもしれませんが、実は医師にとっては大切な情報が潜んでいることがあります。
例えば薬局には、家族が薬を受け取りに来て自宅の様子を話していくケースや、病院では言えなかった他の医療機関受診状況を聞き取れる、といったケースがあります。他の医療機関で処方された薬との飲み合わせや、日常生活の過ごし方、自宅でどのくらい残薬があるかといったことを知ることができたら嬉しいですし、次回処方にしっかり反映させようと考えますね。薬剤師が薬学的知見に基づいて丁寧な聞き取りをし、疑義照会やトレーシングレポートの提供という形で伝えていただけるのは、大変助かっています。
田村医師:
トレーシングレポートには、薬剤師の個性も現れることもあると感じています。長文で書き込む人も、シンプルな人もいます。今年度になって、ひだまり調剤薬局さんからいただくトレーシングレポートの件数は増えていますし、日によっては3枚くらい受け取ることもあります。今まで口頭でやり取りしてきた内容も形に残るもので渡していただいていて。薬剤師さんの中には、トレーシングレポートで「こんな薬はいかがでしょうか」と具体的に提案いただく方もおられます。
「トレーシングレポートってどうやって書いたらいいのだろう」と悩んでいる薬剤師の方がおられるのであれば、書き方は気にせず、まず書いてみることから始めるといいですよ、医師側は些細な情報でも待っています、とお伝えしたいですね。
立石さん:
田村先生がトレーシングレポートをはじめとした情報提供を、喜んで受け止めてくださって、次回処方などに反映いただいているのはありがたいです。
『Musubi』を導入した時は、テンプレートでワンパターンな薬歴になるのではないかという思いもありましたが、使い始めてみるとスマホのような感覚でシュッ、シュッ、と使えるのがいいなと思っています。特に新しい薬を処方する際、禁忌がすぐに確認できるのは助かっています。
また、『Musubi』を使うと、患者氏名や生年月日、処方薬や同意取得状況などが紐づいたトレーシングレポートがすぐに作れます(※)。トレーシングレポートであれば、1件につき2分もあれば書けることもありますね。2022年の夏の2カ月で、今まで提出してきたトレーシングレポートの2年分くらい書けています。服薬情報提供料に関する、1万回あたりの60回の達成も目指せそうです。
立石さん:
以前は会話が成立していた患者さんでも、何分か話していると「ちょっと怪しいな」と認知症の可能性を感じたり、夜中に5回もトイレに行くけれど、病院では話せなかったという患者さんがいたりします。患者さんと話をしていて、そういう情報を聞き出せても、「疑義照会や電話をするほどのことだろうか」という思いが頭をよぎり、電話によって多忙な医師の時間を取ってしまうのは申し訳ないという気持ちがありました。
今では症状や状況に応じて、トレーシングレポートという伝え方も積極的に選択しています。また、算定もれをなくす工夫として、一緒に働く調剤薬局事務さんへの連携も密にしています。
立石さん:
取り組みを始めた当初、顔見知りの田村先生宛のトレーシングレポートでも「ドクターが必要な内容とは」と意気込んでいたことがありましたが、今では患者さんのために伝えたいことがあればすかさず筆を取るようになりました。
田村医師:
私にとっても、本当に頼もしい存在です。改めて思うのは、医療関係者は、実は一人では決して何もできない。これは医師も薬剤師も同じだということです。
話が変わりますが、私は趣味がランニングで、知り合いの医療関係者を誘ってリレーマラソンに出たこともあります。次の人を信じてたすきをつなぐことで、レースは成立しますし、メンバーが集まらなくて1人で何区間も走らなければならなかった時は大変でした。医療連携の現場にも、リレーマラソンとの共通点があるように感じます。
様々な職域の方々と医療のたすきをつないでいくことは、人口減少で医療人材不足に直面していく地方では、ますます重要になっています。臨床で一番重要なのは患者さん。患者さんを、医師や看護師とは異なる目線で見つめている薬剤師さんと信頼関係を築くことは、患者さんのための医療にとって必要不可欠。これからも一緒に取り組んでいきたいですね。(了)
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