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中長期戦略を立てるうえで、参考にすべき“第8次医療計画”の中身に迫る

薬局を取り巻く環境は大きく変わり、薬局・薬剤師に求められる役割は変化しています。昨今の激しい変化に、薬局そして薬剤師をマネジメントする立場の方々は危機感を覚えているところかもしれません。その対策として中期経営計画の必要性を感じている方も多いのではないでしょうか。

中期経営計画とは、3〜5年先を見据えて薬局のあるべき姿(経営目標やビジョン)を定め、現時点とのギャップを埋めるための方針や施策を具体化した経営計画を指します。医療機関である薬局においては、中期経営計画を立てる上で特に参考にしていただきたいのが「第8次医療計画」です。

今後、数回にわたって第8次医療計画について解説していきます。今回は導入編として、第8次医療計画の概要を見ていきます。

この記事を読んでわかること

この記事では、以下の3つについて解説しています。

  1. 薬局の置かれている状況
  2. 中期経営計画を立てる理由
  3. 人口構造の変化に伴う医療提供体制が抱える課題

薬局の置かれている状況

薬局の置かれている環境はここ10年で大きく変化しました。契機となったのは2015年に示された「患者のための薬局ビジョン」ではないでしょうか。

その中で、薬局の役割は「門前薬局(立地)」から「かかりつけ薬局(機能)」へ、薬剤師の役割は「対物」から「対人」業務へとシフトする方針が示されました。また、かかりつけ薬局として機能させるため、ICT化を活用した服薬情報の一元管理・継続的把握にも触れています。ICT化については、2024年現在、オンライン資格確認等システムや電子処方箋の運用が開始されています。薬局の「機能」としての価値を発揮させるべく、引き続きICTの活用は推進されていくことでしょう。

ここで、直近の方向性を知るために令和6年度調剤報酬改定の主な3つのポイントをみてみましょう。

  • 地域の医薬品供給拠点の役割を発揮するための体制評価見直し
  • 質の高い在宅業務推進
  • かかりつけ機能を発揮して患者に最適な薬学的管理を行うための薬局・薬剤師業務の見直し

出典:令和6年度診療報酬改定の概要【調剤】

いずれのポイントも地域に根付く薬局としての価値を発揮することが、評価につながるよう見直されています。

つまり、「立地から機能へ」「対物から対人へ」を旗印に10年近くかけて各制度改革が着実に進み、ICT化による業務効率化を前提としながら、「地域の医薬品供給拠点」「在宅業務推進」「かかりつけ・最適な薬学的管理」などの具体的な体制や施策に落とし込まれ、政府からの 期待が表現されています。

以下の図は、第8次医療計画を策定するべく厚労省が開催した検討会で使用された、今後の人口構造変化の推計です。高齢者は2025年に向けて急増し、生産年齢人口は2025年以降急減すると予測されています。

出典:第8次医療計画、地域医療構想等について

そして、人口構造の変化による医療提供体制は、次のような課題に対応することが求められると考えられています。

出典:第8次医療計画、地域医療構想等について

地域の中でかかりつけ薬局として機能していくためには、人口構造の変化とそれに伴う医療・介護ニーズの変化を見据えた経営計画が必要と言えるのではないでしょうか。

中期経営計画を立てるためには、第8次医療計画を参考にするべき

超高齢化社会にある我が国は、人口構造の変化へ対応していくことが課題です。医療ニーズは変化し、生産年齢人口の減少に対応したマンパワーの確保などが課題として想定されます。これらの社会課題を踏まえて対応していくには、先を見据えた中期経営計画が重要です。

中期経営計画を立てる場合、外部環境の分析からはじめることが定石とされています。外部環境とは、自分達ではコントロールすることができないにもかかわらず、経営には大きな影響を与えてしまう要因です。

ただし、外部環境を網羅的に分析することは実際には難しいでしょう。そこで分析の参考にしたいのが2024年4月から運用が始まっている「第8次医療計画」です。

医療計画とは、医療法(第30条)に基づき、厚生労働大臣の定める基本方針を基に、各都道府県によって地域の実情に沿って策定されます。地域の医療提供体制の確保を目的としているので、医療計画の中で地域医療の現状と課題が指摘され、自治体としての対策が明記されています。つまり、薬局を取り巻く地域医療の状況や方向性を把握することができる公的な文書と言えるのです。

医療計画は昭和60年(1985年)に初めて導入され、5年または6年ごとに再検討されてきました。「第8次医療計画」は2024年度から2029年度までを対象にしており、様々な角度で今後のの外部環境の変化を説明しています。中期経営計画の作成に大いに役立つ情報源と言えます。

第8次医療計画で薬剤師の方が知っておくべきこと

第8次医療計画の中で取りざたされるトピックの一つとして、「人口構造の変化に伴う医療ニーズの変化や薬剤師を含めた医療従事者の確保の必要性」が指摘されています。これは、都道府県間で医療従事者の偏在が生じている課題や、地域の医療提供体制を持続可能なものとするための課題を読み取ることができます。

こういったトピックを読み取る上で、押さえておきたいポイントについてみていきましょう。

二次医療圏定義

医療計画では「医療圏」という言葉が何度も出てきます。医療圏には、一次医療圏、二次医療圏、三次医療圏があり、数字が大きくなるにつれ、提供される保健医療は高度になり、区域は広くなります。

その中でも二次医療圏は、救急医療を含めた入院治療までの一般的な保健医療を提供する区域であり、医療計画の中でも、人口変動や医療従事者の偏在を扱う基本単位として特に用いられることが多いです。複数の市区町村で構成され、令和3年10月現在までに355の二次医療圏に区分されています。

出典:第8次医療計画について 令和5年度第1回医療政策研修会

人口、死因の推移、受療率

続いて、医療需要の変化に大きく影響を与える人口動態に関する指標をみていきます。
以下の図は、我が国の人口動態の推計です。2040年頃までは65歳以上人口の増加が続くことがわかります。

出典:第8次医療計画、地域医療構想等について

死因については、悪性新生物や心疾患、老衰が増加傾向であることが読み取れます。

出典:第8次医療計画、地域医療構想等について

入院患者数は増加傾向にあり、2040年には65歳以上の占める割合が約8割となることが見込まれています。



出典:第8次医療計画、地域医療構想等について

外来患者数は2025年にピークを迎えることが見込まれています。2040年には65歳以上が占める割合が約6割になることが見込まれています。

出典:第8次医療計画、地域医療構想等について

在宅患者数は多くの地域で今後増加が見込まれています。2040年以降に在宅患者数はピークを迎えると見込まれています。

出典:第8次医療計画、地域医療構想等について

ここで挙げた人口動態と医療需要の変化に関する指標は全国のデータであることにご留意ください。第8次医療計画ではこれらの指標を都道府県単位(指標によっては二次医療圏単位)で把握することができるため、全国との差分から地域傾向や将来予測を知ることに役立ちます。

医療機関数、医師の偏在、高齢化、外来機能

最後に、地域における外来医療機能の不足・偏在等の課題にスポットをあててみます。

全国の傾向としては、外来医療については無床診療所の開設が都市部に偏り、それによって外来機能の偏在が生じています。また、診療科の専門分化が進んでおり、患者は医療機関の選択に十分な情報を得ることができず、一部の医療機関に外来患者が集中しているという実情があります。


この課題に対して、各都道府県では外来医療の医療提供体制の確保を目的とした「外来医療計画」を作成し、3年ごとに見直しを行っています。これも医療計画の構成要素の一つになるので、自身の経営する地域の方針は確認しておく必要があるでしょう。

出典:外来医療計画の概要

薬剤師数

外来医療計画では、医師の偏在や、薬剤師の地域偏在、業態偏在も課題として扱われています 。現在は、病院薬剤師の確保が緊急性を伴う課題として、多くの地域で偏在解消に向けた議論や対策が行われ、第8次医療計画の中でも取りざたされています。


出典:薬剤師確保計画ガイドライン(概要)

まとめ

ここまで、第8次医療計画の概要として、人口や疾患、受療率の動態、医療関係者の偏在などの外部環境を把握できること、そして医療圏ごとの課題が読み取れることを紹介してきました。各医療圏を細かくみてみると、医療を必要とする側と医療を提供する側のバランスがとれていない地域も存在していることがわかります。これからの医療需要の予測や、それに応じた人材確保計画のヒントになる場合もあるでしょう。

このように、様々な角度から地域医療の実情を掴める第8次医療計画は、薬局をはじめとした医療機関が中長経営計画を策定する上で、非常に重要な情報源と言えるでしょう。

次の記事は、この第8次医療計画をさらに深掘りし、具体的な都道府県を挙げながら、シナリオ別の薬局戦略をご紹介します。


参考資料

1.第8次医療計画、地域医療構想等について|第 7回 第8次 医療計画等に関する検 討会 令和4年 3 月4 日
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000911302.pdf
2024/5/28

2.令和6年度診療報酬改定の概要【調剤】|厚生労働省保険局医療課
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001238903.pdf
2024/5/28

3.薬剤師確保計画ガイドライン(概要)
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001082416.pdf
2024/5/28

4.経営計画策定支援 スライド|経済産業省 中小企業庁https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/kenkyu/2005/zaimukanri/05620keieisakutei.slide.pdf
2024/5/28

5.外来医療計画の概要 スライド|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001071386.pdf

医療経営士タカヒラ
医療経営士タカヒラ
医療経営士。複数社でMR、マーケティング、トレーナーなどを経験し、現在はKAKEHASHIでマーケティングを担当。ネコと娘と関係省庁が出す資料(PDF)を夜な夜な読み込むのが好き。薬局経営者の方々の意思決定のお手伝いができるよう、日々精進しています。
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