海沼さん:
わたしの薬局は仙台市の中心地から西に位置する、50年ほど前に造成された住宅地の一角にあります。1997年の開業当初から門前の診療科は小児科ですが、近年、変化を感じていることが三つあります。
一つ目は、集中率です。外来患者さんは長年ご近所にお住まいの方々が多いですが、大学病院など遠方の処方箋を持ってくるケースが増え、集中率は60%ほどです。
集中率が下がっている傾向自体は、患者さんのかかりつけ薬局として機能しているためで、国の方針にも即しています。ただ、備蓄しておく医薬品の品目数も数量も必然的に多くなり、なかなか在庫を絞ることができず、それに伴い発注や在庫管理業務時間は長くなってしまいます。
対策として紙のカレンダーに約20人の次回来局予定日を書き込んでいました。しかし、多忙で記載漏れが起こることもありました。
二つ目は、訪問先の児童福祉施設に入所する患者さんの麻薬、養護・自立支援を必要としている高齢者の向精神薬、といった、特定の薬物治療が必要な患者さんのみ、という処方があります。そのようなケースが複数あるため、簡単に「在庫を絞る」ということができないのです。
三つ目は、新型コロナ前後を比較すると、長期処方が多くなったという点です。継続の患者さんについてはカレンダーに書き込んで管理をしてきましたが、今までは14日分だった患者さんが28日処方、90日処方……なんていうケースもあって。「多めに発注しておかないと」と、コロナ前よりも在庫を持っておく意識が強まり、かなりの不動在庫が発生してしまいました。
在庫管理や発注業務は対物業務ですから、もっと効率的にしなければいけない、何とかしなければならない、という思いを抱えていました。そんな時、医薬品二次流通「ファルマ―ケット」のグループ会社が、『Musubi AI在庫管理』というシステムを開発していると知りました。医薬品卸の会社が作っているシステムと比較しながらデモを受けてみると、患者と在庫がひもづいて見られる点が大きく違うな、と感じました。
と言うのも、複数の疾病を抱えた難病患者さん、薬物治療が不可欠な医療的ケア児など、その患者さんしか処方しない薬剤の在庫を複数持っています。応需しているうち60%超が1、2人のみ。「欠品するよりは持っていた方がよい」と在庫が増えがちになっているのは、このような背景もあります。
導入後、現在の在庫を『Musubi AI在庫管理』に取り込んでいきましたが、まずはほぼ全種類をそろえている漢方薬からはじめました。そのあと、血圧の薬、糖尿病の薬......というように、「一気に全部の在庫を取り込もう」と考えるのではなく、分類をしながら徐々に進めていきました。
『Musubi AI在庫管理』の画面上では、発注業務だけではなく、患者さんの来局管理ができます。カレンダー機能で月の来局予定が一覧化され、患者さんごとの次回来局予定と処方予測も表示されます。そのため、「絶対に欠品させたくない、あの患者さんの分」と、紙のカレンダーへ手書きする業務がそっくりなくなりました。
来局期間が半年ほど空く甲状腺疾患の患者さんの来局を、AIが予測してシステムの画面に出てきたときは「おっ」と思いましたね。
また、近くの医療機関の来局傾向が、土曜は平日と異なる診療科の患者さんが多くなるのですが、その傾向もAIが学習しています。
このようにして徐々に箱を読み取って発注する機会は減り、AIによる「おすすめ発注」機能を使って発注業務を完結できるようになりました。また、欠品しないように注意したい薬剤にはラベルを付けられる機能があるので、活用しています。使い始めてからの半年間だけでも、どんどん予測の精度が高まっていて、今では1日の発注業務は60分から10分ほどに削減できています。
今までは発注業務などで薬歴記載などの時間を圧迫し、残業しなければなりませんでしたが、削減できた時間を使って進められるようになりました。
地域社会に目を向けると、長年この街で暮らす住民やその家族、環境上や経済上の理由で児童福祉施設や養護老人ホームを生活の場としている方々など、さまざまな状況の「暮らし」が見えてきます。薬剤師という立場からだと、相対する人を「患者さん」としてのみとらえてしまっているような感覚があって。「医療や職域を超えて学ぶ必要がある」と感じてきたので、ケアマネジャーの試験にも合格しました。
このような経験を通じて感じているのは、薬剤師は、もっともっと積極的に地域に出て、他職種のふるまいや業務から学ぶ必要があるということです。
在庫管理や発注業務という対物業務を、AIを活用して効率的かつ確実に進められるようになり、「対物から対人」への条件が整いつつあると思います。地域包括ケアシステムを担う一員として、地域で暮らす方々に深く関わる専門職の一人でありたいです。(了)
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