ー法人や薬局の特徴、近年の課題について教えてください。
宮城さん:
わたしたちの薬局は沖縄県で開業し、沖縄本島で店舗を構えて今年で25年を迎えます。Musubiを知ったのは薬局の横のつながりからで、導入済み法人さんの口コミでした。はじめて画面を見た時の感想は「タッチで画面を進めていくのは、今までとはぜんぜん違うし画期的」。薬歴にかける時間も短縮できそうだと感じ、社内での検討を経て2019年に導入しました。
近年の薬局経営における課題は、新型コロナウイルスの感染拡大による影響です。特に気がかりだったのが、治療から脱落してしまう患者さん(脱落患者)のことです。
2021年と2022年は発熱外来で訪れた新患さんが一次的に急増したのですが、高血圧や脂質異常症、糖尿病といった慢性疾患の患者さんの一部は処方日数が長期化し、足が遠のきました。その結果、処方箋枚数が減少傾向に陥ってしまった薬局が複数あったのです。
中でも、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの慢性疾患の患者さんが多い「みさと虹薬局」は、2019年に移転再オープンしたばかりで迎えたコロナ禍だったこともあり、影響が大きかったです。「これは何とかしなければならない」と思ったものの、効果的な打ち手が見えない日々でした。
ー処方日数の長期化は、アドヒアランス不良にも陥りかねず、課題に感じている薬局は多い印象があります。そこからどのように打ち手を考えたのでしょうか。
宮城さん:
足が遠のいてしまった患者さんに、薬局の存在を思い出してもらうにはどうしたらいいのだろう...... と考えていた時、歯科クリニックの定期検診を知らせるダイレクトメールが目に入りました。そのときふと「患者さんにもう一度、薬局の存在を思い出してもらうきっかけがあれば、また足を運んでもらえるかも」とヒントをもらったような気がしました。
座安さん:
僕自身にもハガキを手に取り、同じように感じた経験がありました。ハガキって、手に取ってもらえるし、インパクトがある連絡手段だなと。ですから、ここ2、3年ほど宮城社長と「患者さんにハガキを送ってみたい」という話をしていました。
ーハガキですか。アナログな手法で、手間もかかりそうです。
座安さん:
そうなのです。レセコンで患者さんの最終来局日や住所を調べて......といったリストづくりって、作業量が膨大ですよね。また、「ハガキ、なんとなく良さそう」と思いつつ私たちの薬局に前例がない。だから、どんな患者さん何人にハガキをお送りしたら、本当に再来してくださるかも見通せなくて。
「膨大な作業量になりそうなのに、やって意味があるのか?」という考えが頭をよぎり、なかなかできなかったのです。
座安さん:
そんな時、新しい『Musubi』の分析機能(Musubi Insightの患者リスト機能)を活用すれば、このリスト化も、ハガキを送った後の再来状況も、一瞬でつかめると判明しました。ハガキの内容・デザインさえ固めれば、印刷から発送まで、1日で終わらせることができそうと思い、「ハガキ施策」をやってみようと思いました。
ー「ハガキ施策」は、具体的にはどのように進めましたか。
座安さん:
まとめると5つのステップに沿ってすすめました。
1. 送付先のリスト化
まずは『Musubi』の分析機能を使って、ハガキを送付する患者さんの絞り込みを行いました。『Musubi』の分析機能は、患者さんの来局状況や加算状況などに応じて、さまざまな切り口で一覧にできます。はじめての取り組みだったので、あまりに多くの人に送るのも心配だし、少ないと振り返りが難しいので、100人程度かな、と。その結果、送付先は
“前回の来局を基に推定される来局予定日から29日〜90日経過している90歳未満の慢性疾患患者のうち、5回以上来局していて、高齢者施設等の入所患者を除く122人”
に絞り込みました。
後ほどハガキに住所と宛名を印刷するので、リストをCSVファイルに加工する作業も含めて、30分もあればできました。
2. ハガキで伝える内容を考える
ハガキの内容は「どんなことを伝えるのが、薬局への足が遠のいている方に、この薬局を思い出していただけるか」という観点で、薬局が開催している健康相談会の告知をお伝えしようと決めました。ハガキのデザイン作成は、半日くらい試行錯誤して完成させました。
3. ハガキに住所や氏名を印刷する
4. 投函する
事務職員にお願いして、送付リストのデータをハガキに印刷しました。2時間くらいで完成し、最終確認して投函しました。
ー送付先の条件を複数設けるのは、絞り込みの作業が煩雑になりそうです。
座安さん:
そんなことはありません。『Musubi』の分析機能には一覧性があり、特定の患者さんの絞り込みはあっという間にできました。ここはまさに、デジタル技術が成せる部分なのだと思います。
ーデジタルとアナログの融合、ということですね。送ってみた結果、いかがでしたか。
座安さん:
送付した患者さんのうち、約3割が1ヶ月半以内に再来局してくださいました。この中には、3~4カ月足が遠のいていた方も複数おられますし、男性の患者さんからは「健康相談会の当日は来られなかったけど、また機会があったら参加したいから、次あったらまた教えてください」と、ハガキを手に来局いただいたケースもありました。
そして、何より患者さんの「その後」の様子にハガキ施策の効果を実感しました。
ー具体的にはどのようなことですか。
座安さん:
ハガキ送付後に再来局した患者さんのその後の状況を見たところ、「来局間隔の適正化」につながったのです。薬局の存在を思い出してもらった患者さんに、しっかりとした服薬指導を行い、そして適正な薬物治療を再開いただいた。ハガキ送付が、その大きなきっかけになりました。
【図】来局間隔の適正化につながったケース
ーところで、管理薬剤師の座安さんがハガキ施策を推進しようと決めてから、薬局の他の職員さんの反応はいかがでしたか。
座安さん:
実は、他の職員は「ぽかんとした表情をしていた」というのが本当のところです。
先ほど述べたように、長年ハガキを使った患者さんへのアプローチをやってみたいと言いつつ、なかなか始められなかったので。「本当に始めるのかな」「やって効果があるのか」といぶかしげだったのかもしれません。
ただ、ハガキ施策をやってみると、まずは再来率の高さに驚き、「率直に、すごい」という反応がありました。再来局が1回の時は「たまたまではないでしょうか」という意見もありましたが、その後の状況を分析して来局間隔が改善されたことがわかり、「効果があるのですね」と納得してもらえました。
中でもうれしかったのは、「ハガキ施策のやり方、教えてください」と、オペレーションを覚えたいと申し出てくれた30代の事務職員の声です。ちょうど他店舗へ異動予定がある職員へ伝授したので、今後は同様の取り組みが法人内で広がりそうです。
宮城さん:
『Musubi』は、薬局の業務に対する意識を少しずつ、でも確実に変えています。
たとえばハイリスク薬加算。『Musubi』のハイリスク薬のチェック項目を確認していけば、薬剤師自身がなにを患者さんに聞けばよいのか整理ができ、それによって今まで算定していなかった加算の取得にもチャレンジできる環境を生んでくれています。また、『Musubi』の分析機能で把握した件数が伸ばせている店舗も確認できるので、そのオペレーションを法人内で共有することもできます。
数値で比較できる状況は、ややもすれば現場へのプレッシャーになりかねない点には注意をしつつ、月に1回の管理薬剤師会議などを、データに基づいて店舗同士で学び合い、議論する時間にするため活用しています。
座安さん:
「特定薬剤管理指導加算の件数を知りたい。自分ではハイリスク薬加算を取っているつもりだけど、実際どうなのか、データで見てみたい」と申し出てくれた薬剤師もいます。
また、地域支援体制加算に必要な算定要件の各種指標など、「薬局のみんなで共有したい」と思うデータは印刷し、調剤室内の職員の目に留まりやすい所に貼っていますよ。
これまでは業務を数値(データ)で表すことも、それを共有するのもなかなか簡単ではありませんでしたが、『Musubi』の分析機能がそれを可能にしています。
ー話は変わりますが、「沖縄県薬剤師確保のためのアクションプラン」によると沖縄県は薬学部を有する大学がなく、人口10万人あたりの薬剤師数は47都道府県の中でワースト1。人材確保が課題かと思いますが、若い方々に保険薬局を働く場所として選んでもらうために、必要なことは何だと思いますか。
座安さん:
端的に、「新たなチャレンジを続ける薬局であること」でしょうか。
宮城さん:
そうですね。薬剤師には、患者さんに対してできること、やらなければいけないことがまだまだある。一方、どうしたらチャレンジできるのだろうと考えてしまうという場面って、意外と多いのかもしれません。
そんな時、『Musubi』が、私たちがやりたくてもできないチャレンジの後押しや、一歩目を踏み出すサポートをしてくれる存在になっています。今回のハガキ施策は、まさにそんなチャレンジの一つです。
―『Musubi』を活用し、今後の薬局経営でさらにチャレンジしていきたいことはありますか。
宮城さん:
『Musubi』の分析機能が「見える化」してくれるデータからは、経営の指標だけではなく、薬局や薬剤師個人の「特性」もつかめるのではないか、と思っています。
店舗状況をデータで比較をすると、たとえば吸入指導加算が多い店舗は、呼吸器疾患については他の薬局や薬剤師よりも専門性高く取り組めていると言えるでしょう。「糖尿病のフォロー件数が多いこの薬局の知見を、他店舗にシェアしてもらおう」といった学び合いも生まれるかもしれません。
このように職員のみなさん一人一人がデータを活用し、薬局や薬剤師個人の「特性」に気付き、伸ばしていく。そんな法人運営にチャレンジしていきたいですね。(了)
Copyright © 2024 KAKEHASHI Inc. All Rights Reserved.