―あしたば薬局さんの『Musubi』導入のきっかけや、服薬期間中フォローのツールを必要だと感じた背景を教えてください。
池さん:
初めて『Musubi』に触れたのは学会の展示スペースでした。実物を見て、入力のしやすさ、患者さんに画面を見せるというコンセプト、持ち運びできるので在宅の場面でも使いやすい点を魅力に感じました。レセコン一体型の薬歴からタイミングを見て切り替えようと思っていたのですが、ちょうどそのころ、服薬期間中フォローの義務化が始まる時期(2020年)でもありました。
服薬期間中フォロー、しっかりとやっていかないと。そう思って患者さんに電話をしたものの、なかなかうまくいかなくて。これは何かしらの体制を取らなければだめだ、と悟りました。ですので、『Musubi』を導入する時に併せて服薬期間中フォローのツールも入れよう、と決めました。
―以前のフォローアップは、主にお電話を使って取り組んでいたのですね。
はい。電話だけの時は本当に大変でしたよ。患者さんに薬を渡した時に予定をお尋ねし、「この時間に電話かけて」といった約束はしていただけるのです。でも、その時間にかけてもつながらない。そんなことはしょっちゅうで、電話でのフォローは、体感だと半分もつながらなかったかな。
ただ、患者さんの気持ちを察すると、なんとなくわかりますよね。病院で医師から「お薬出しますね」と言われたら「目的はもう達成された」と感じているかもしれない。その証拠と言うか、フォローのために薬局からかける電話がなかなかつながらない。一方で、家について薬袋を見て、はて、何の薬かわからないと思った患者さんから「これ何の薬やったっけ」「風邪薬と一緒に飲んだらあかんって聞いたけど」というお電話をいただくことはあります。
薬剤師と話したことを患者さんの記憶に残してもらうって、簡単ではないですよね。
―『Musubi』導入後、どのような変化がありましたか。
池さん:
まず薬歴としては、入力の仕方がすごく簡単ですね。患者さんに画面を見せて服薬指導し、「健康アドバイス」の画面を開き、患者さんとお話をして「お大事に」と伝えると、薬歴の半分ぐらいが出来上がっている。そんな感覚です。昔から、「百聞は一見に如かず」って言われていますが、本当にその通りで、健康アドバイスの「患者さんの視覚に訴える」という方法がすごくいいな、と思っています。
かつての「二つの端末を3人の薬剤師で順番待ちして使う」という状況が『Musubi』の導入で一気に解消されて、在宅の患者さんのところに行く時間も作れるようになりました。
―フォロー機能の導入時はいかがでしたか。
新しい薬歴記載に慣れてからフォローアップ機能に関する研修を受け、使い方を理解していきました。
患者さんはLINEを使うので、薬局ではなかなかお話されない方や電話をかけても出なかった方も、このツールを使えばコミュニケーションが取れるかもしれない、と思いました。
―フォロー機能を活用し始めて、どのような変化が起きていますか。
薬局では細かく伝えきれなかったお薬にまつわる話を、文字という形でお伝えでき、患者さんとの関係性が変わってきています。
タムスロシン錠を処方されている70代の患者さんは、「便利そうやし、いっぺん使ってみようかな」と、友だち登録してくださいました。登録後、立ちくらみやめまいの症状をアラートが検知しました。メッセージ機能を使って、なぜふらつきが生じるのか、その時の対策も併せてお伝えすると、「ご丁寧に返信ありがとうございます」と、絵文字も添えてお返事がありました。
これ以降、私自身もお話がしやすくなりました。「他院処方もまとめていただけたら」と伝えると、総合病院の処方も持参してくれるようになりました。
さらに、今まで特に申し出がなかった「お薬の量を減らしたい」という相談もしてくださいました。減らすことが必ずしも良いわけではないことも踏まえて、便秘の経過を見ながら医師へ提案し、酸化マグネシウムを調節して減薬することができました。
―高齢の患者さんとも、LINEでつながっているのですね。
池さん:
そうなんです。この薬局の患者さんの平均年齢はだいたい70代ですが、家族との連絡手段のためにスマートフォンにLINEを入れているとおっしゃる方は多いです。「LINEを入れていない」とおっしゃる患者さんはこのエリアでは少数派のようで、全体の2〜3割くらいでしょうか。
LINEでつながっている80代後半の患者さんで、新たに他院の処方箋も持ってきてくださるようになった方がおられます。よくよく話を聞いてみると、以前は「聞きたいことがあっても、電話で質問は......」と遠慮していたそうです。「送られてくる質問がきっかけで、メッセージのやりとりができるのっていいね」というお褒めの声もいただきました。
池さん:
このように患者のみなさんが追加でお持ちいただく門前以外の処方箋枚数を足してみると、導入から1年経つか経たないかの頃には、月20枚ほど増えました。1日あたり1枚程度ですが、スマホのメッセージという視覚情報を通じて、患者さんとの関係性が深くなっているのですよね。「薬のことでコミュニケーションを取ってくれる、この薬局にお願いしよう」と感じた患者さんに、処方箋を追加でお持ちいただいている。薬局のフォローアップに価値を感じた患者さんが、「お薬のことはここで」と決めてくださった。この状況はまさに「百聞は一見に如かず」だな、本当に良かったな、と感じています。
―なるほど。服薬期間中フォローを通じて、患者さんに「この薬剤師さんにもっと聞いてみよう」ですとか、「この薬局を頼りたい」という思いが芽生えているのですね。
そう感じています。
たとえば、耳の聞こえが悪い80代の患者さんは、Do処方ということもあり、以前は服薬指導がなかなかうまくいかなかったんです。こう、奪い取るように「バッ」という感じで、お薬を持っていかれるような方でした。
この患者さんともLINEでつながってから、関係性が大きく変わりました。具体的には、バイアスピリン錠の服用に伴って「歯ぐきの出血が気になる」ことをアラートが検知したので、歯磨きの工夫をメッセージでお伝えしフォローしました。すると、次回来局時、服薬指導の際の様子が明らかに違っていて。薬剤師の話をしっかりと受けとめよう、と耳に手をあててくださって。コミュニケーションができるようになって、とてもうれしかったですね。
―『Pocket Musubi』のアラート機能をきっかけに、患者さんの状況を把握し、コミュニケーションを取る。これを習慣にされているのですね。
池さん:
そうですね。アラート機能が検知した内容によっては、すぐにメッセージを返信することもあれば、次回来局時にお話しして伝えることもあります。
患者さんに送信される質問文の中でも、飲み方に関連したアラートから患者さんの服用の姿が見えて、私自身「えっ」と驚かされることもありました。
薬剤師から患者さんへの定番の質問の一つに、「お薬、ちゃんと飲めていますか」というのがありますよね。患者さんって、そう聞かれたら、だいたいは「ちゃんと飲めてます」と答えるのが一般的かと思います。ただ、ここで言う「ちゃんと」とは、一体どんな状態なのか? まで、なかなか掘り下げて質問するのは簡単ではありません。
そんな時、「お薬を噛み砕いて飲んでいますか」という趣旨の質問に対するアラートが上がってきたのです。あの患者さん、そんな飲み方をしていたのか!と気づかされましたし、薬剤の適正使用についてアドバイスをするきっかけになりました。
―LINEの友だち登録の呼びかけは、どのように取り組んでいますか。
池さん:
私たちの薬局では、導入した最初の3ヶ月にしっかりと声掛けをしたところ、100人近くの患者さんに登録いただけましたね。1人薬剤師の時間帯があるので、なかなか「必ずご紹介」とはいかないという事情もありまして。「長くても90日処方だから、この3ヶ月はしっかりとがんばる」という感じで、薬局のみんなで声をかけました。
―『Musubi』を使い続けて感じることはありますか。
『Musubi』は、日々いろんな機能が進化していっているなと感じます。「ほしいな」と思っている機能が次々と増えて、導入当初と比較しても、本当に便利になっています。
特に、薬歴へ服薬期間中フォローのメッセージ内容が自動転記される機能が追加された影響は大きかったです。フォローを通じて患者さんから寄せられるのは貴重な情報ですので、以前はコピー&ペーストで記録を残していました。薬歴システムとフォローアップツールが連携し、どの薬剤師であっても薬歴画面から瞬時に確認できるようになり、業務効率化と服薬指導の充実に直結しています。この相乗効果は大きいです。
そういえば、服薬期間中フォロー機能だけではなく、処方箋送信機能もあることは、まだ患者さんにPRし切れていないような気がしています。また「3ヶ月」などと期間を決めて「新しい機能がありますよ」という感じで声掛けに取り組んでみようかな、とも思っています。
―最後にお尋ねしたいのですが、池さんにとって、『Musubi』とはどんな存在になっていますか。
池さん:
率直に、今となっては「なくてはならないツール」です。
ありふれた言葉かもしれないですが、地域に根ざして、患者さんとしっかり向き合える。そんな薬局経営をやりたい。そう思って、管理薬剤師を辞めて独立開業しました。「対物から対人へ」と言われ始めて久しいですが、もとをたどれば、薬剤師が本来担うべきことが対人業務に凝縮しているのですよね。だからこそ、システムや機器を入れることで効率化を果たしたり、体制を整えられたりすることは、しっかりと取り組んでいきたいのです。
今日、何回も繰り返していますが、本当に「百聞は一見に如かず」。『Musubi』の機能は、「話して伝える」だけではなく、「視覚を活用して伝える」へと、薬局のコミュニケーションの幅を広げてくれました。「患者さんとしっかり向き合う」という、私がまさにやりたかったことを実現してくれています。
「あしたば」という植物は、生命力がとても強いのが特徴です。薬局経営を取り巻く環境の変化に負けないくらい強くなった患者さんとの関係性を、これからも大切にしていきたいですね。(了)
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