ーフォローアップに力を入れるようになったのは、いつ頃だったのでしょうか。
廖さん:
強く意識し始めたのは、義務化以降、というのが正直なところです。最初は電話でフォローしていましたが、患者さんにフォローの必要性をご理解いただき、「この日、この時間に電話しますね」とお約束するのは大変で。ICTツールの導入は必須だと感じていました。
ーフォローアップはやらなければならない、だから効率的に行う必要がある、と考えたのですね。
はい、そうです。2021年の夏ごろから全店舗で『Pocket Musubi』の導入が始まり、私は当時勤務していた茨城県の店舗で使い始めました。2022年9月にこの千葉県の店舗へ異動して、今も日々活用しています。
ー日々、どのように活用していますか。
廖さん:
まずは朝、出勤すると『Musubi』端末を開いてアラート確認をするのが、日課になっています。回答やメッセージを見て、すぐに電話をすることもあれば、メッセージ機能でお返事することもあります。
薬歴とひもづいているので、投薬台で薬歴画面からスクロールして「あの時、どんなフォローをしたか」を確認できるのも便利です。『Pocket Musubi』は導入後にメッセージ機能が追加されましたが、この機能が追加された後では、患者さんとの日々のやり取りが深くなったように感じています。
ーメッセージ機能で患者さんからいただくことが多いのは、どんな内容でしょうか。
廖さん:
「市販のこの薬を飲みたいのだけど、大丈夫?」という飲み合わせについての相談が最も多いですね。電話でのフォローだと、どうしても患者さんの「お薬のことを聞きたいときに聞ける」に応えきれないし、患者さんが飲み合わせが気になっても薬局に電話を一本かけてみる、というところまでは至らないのかなと。
LINEであれば手軽にお尋ねいただけますし、私も次回来局した際に「あの時、お薬のご質問いただきましたが、その後いかがですか」と自然にお声がけできています。
ーフォローのメッセージを送った後、さらにお返事をいただくことはありますか。
はい、あります。ちょうどこの前、相互作用の可能性がある患者さんに服用時間をずらすようにフォローのメッセージを送ったところ、「ありがとうございます」という感謝の言葉と共に、最近の体調の変化についてお返事をいただきました。
実はこの方に対しては、ここ半年ほどで6回、フォローのメッセージを送っていたのですが、お返事をいただいたのはこの時が初めてだったのです。患者さんが聞きたいときに聞けるような環境を整えておくためにも、継続したフォローが大切だと気付きました。
ー患者さんとの関係性を深めるには、薬剤師からの長期的なアプローチが大切なのですね。
廖さん:
そうですね。多くの患者さんと長期的、かつ効果的・効率的に関わるためには、ICTを活用していくことが大切だと思っています。
例えば、フォローアップをしている患者さんから「減薬したいんです」という相談をいただいたことがありました。20種類近くのお薬を処方されている方で、毎回お薬手帳で確認してきましたが、服薬指導の場面だと、患者さん自身もなかなか時間がなかったようで。私もアプローチの難しさを感じていたのですが、患者さん自ら「こんなにいっぱい飲んでいて、大丈夫なのかな」と打ち明けていただけました。
もちろん医師の治療方針もありますので、すべての患者さんの減薬ができる訳ではありません。ここで重要なのは、まずは患者さんがお薬の話をしやすくなった、ということかなと思います。『Pocket Musubi』には処方箋送信機能もあるので、待合でお待たせしてしまう時間を減らせていることも、患者さんとしっかりと話ができる環境づくりにつながっています。
ー2022年の日本薬剤師会学術大会で、服薬期間中フォローアップに関する発表をされましたね。
廖さん:
フォローアップ状況について、『Pocket Musubi』と電話の事例を収集して比較しました。すると、『Pocket Musubi』によるフォローアップ件数が突出していたのが、婦人科系のお薬を受け取っている女性でした。背景にあるのは、当時勤務していた店舗の薬剤師たちが、私を含めて男性だけだったからだと思われます。
ーなるほど。逆を言うと、男性の泌尿器科患者さんが女性の薬剤師へお話がしづらい、という場面もありそうです。
そうですよね。患者さんの気持ちを考えると、対面では話しづらいデリケートなこともLINE上のテキストのコミュニケーションだと相談しやすいのかなと。『Pocket Musubi』に助けられた、と感じています。
ーフォローアップの際の質問を「副作用マネジメントに関する質問」「製剤の適正使用」などカテゴリー別に見ると、割合で多いのは「副作用マネジメントに関する質問」ですね。
そうですね。一方、割合で見ると少ないのですが、製剤の使い方や保管方法といった適正使用については、フォローアップの機会だからこそ伝えられる、とも感じています。
服薬指導の際はどうしても患者さんの体調変化をしっかり伺いたい分、限られた時間で薬剤の適正使用の説明にまで至れていなくて。そんな悩みがあったので、注射剤の保管方法に関するアラートをきっかけにして、メッセージで保管方法をお伝えできるのがいいですね。
ーアラートをコミュニケーションのきっかけにしているのですね。
そうですね。メッセージのやりとりだけではなく、緊急性に応じて電話をかけることもあります。
『Pocket Musubi』から送られてきた質問に対するアラートで、体調変化を察知できた女性の患者さんがおります。お電話をかけてお話を伺うと、副作用か新たな症状かの判断が難しく、受診勧奨をしました。後日、その方から「命の恩人だ」という言葉をいただいて。そこまでおっしゃっていただけるほどだったかな......とも感じましたが、やはりご本人にとっては不安な要素だったようで。それをしっかり拾え、患者さんの力になれて、率直にうれしかったです。
ー学会での発表を振り返っていかがでしたか。
廖さん:
まずは何より、関心の大きさに驚きました。
2日間の学会日程のうち、ポスター発表のために割り当てられた時間は2時間。発表当日の朝に現地でポスターを貼っている時から「発表を聞きたいです」という方がお越しになりました。
発表の時間中も本当にひっきりなしにいろんな質問いただきました。「SNSを使ったフォローの効率について」といった質問から、「患者さんとのコミュニケーションに悩んでいる」という悩みまで幅広く伺い、義務化から2年、全国の薬局関係者が試行錯誤していることを肌で感じました。
ー改めて、服薬期間中フォローアップに取り組む廖先生にとって、『Musubi』はどのような存在ですか。
対人業務を強化し、患者さんと信頼を築いていくために欠かせないツールです。薬局も薬剤師も変化をしていかなければならず、フォローアップに取り組んでいるのもその一環です。
以前、茨城県の店舗で仕事をしていた際、医療資源が限られた地域で、病院の薬剤部が業務の幅を広げ、医師のタスクシフトが進んでいる姿を見てきました。薬局の薬剤師にも、さまざまな変化が次々に広がっていくかもしれない。そんな将来を見据えて、患者さんとの信頼構築にとって効果的な取り組みを、効率的に進めていける状態にしておくことは、薬局や薬剤師が変化の波に乗っていくためにも大切だと思っています。
私自身、現在勤務している千葉の店舗に異動して間もない中ではありますが、副作用マネジメントに関連したフォローだけではなく、生活相談から見えてくる患者さんの悩みを把握することが大切だと感じています。改めて、フォローアップを継続していきたいですね。(了)
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