―『Musubi』を本格的に導入したのは2019年ですね。その当時のきっかけをお聞かせください。
久保社長:
当時は働き方改革に対する注目が高まっていたころで、IT化やAI活用の潮流をとらえ、業務フローを改善する必要性を感じていました。一方、薬局業界の特殊性もあり、新しいシステム導入を検討しても、その選択肢が限られてなかなか動きにくさも感じていた時、『Musubi』のデモンストレーションをしていただいて。
患者さんにとって何がメリットになるかという視点、現場の薬剤師に対する導入時のサポートがしっかりしている点への期待が、他の電子薬歴からの切り替えの決め手になりました。
―今後の薬剤師の働き方を考えた上での選択だったのですね。導入後はいかがでしたか。
久保社長:
どうしても業務過多になってしまう冬の時期の残業が、ほぼゼロになったのはうれしかったです。毎年毎年、営業終了後に2~3時間、薬歴を書くための残業で先生たちが疲弊していくのが本当に心苦しかったので、業務効率化につながる判断ができたと感じています。
中村さん:
私は店舗の管理薬剤師ですが、投薬前に健康アドバイスや添付文書を確認できることで、薬剤師一人一人のスキルアップにつながっていると感じています。新人薬剤師でも、一通り操作方法を教えるとすぐに覚えてくれますよ。
私自身、別の会社で働いていた時にとある学会で『Musubi』を知り、薬剤師の負担がかなり減りつつ、サービスの質が高められるという印象を持ちました。転職を考えているタイミングでもあって、『Musubi』を導入していた点に魅力を感じ、いまここで働いています。
宮地さん:
私は本部で経営企画を担う一人として「薬局にできるチャレンジはさらにあるはず」と模索しています。
近年、このあたりでもドラッグストアや他の調剤薬局のオープンが続いており、いかに差別化を図り、患者さんに選ばれるかを考え抜くことが重要です。具体的には、健康や美容に着目し、佐賀の地元の商品をそろえた物販コーナーやエステルームの設置、といった新たなチャレンジをしています。
宮地さん:
『Musubi』によって業務効率化が図れてきたので、次は複数店舗の経営状況を数値で把握することで次の打ち手が見えてくる。そう考え、『Musubi』の分析機能の活用を検討し始めました。
ーこの2022年に取り組んできたプロジェクトとは、具体的にどのようなことでしょうか。
宮地さん:
患者さんの脱落防止のための介入活動として、患者リストに基づいた架電をプロジェクトとして立ち上げました。
『Musubi』の分析機能を使うと、特定の期間で来局していない患者が一覧化される「患者リスト」が、簡単に作成できます。リストで患者さんの状況を「見える化」していくと、「薬局から離れていくかもしれない患者さんがこれだけいるのか、何もアプローチをしないままでいいのか」という危機感を持つようになりました。
宮地さん:
患者さんの現状がわからないままだと、薬局や薬剤師がどのように動くべきかすらわからない。そこで、お電話をかけて状況を伺うプロジェクトをスタートさせることにしました。
ーなるほど。プロジェクトは全店舗で開始したのですか。
宮地さん:
はい、そうです。『Musubi』の分析機能を使った「患者リスト」は、各店舗で作成や閲覧ができるので。プロジェクトは本社もメンバーだけではなく、管理薬剤師として現場に立つ中村先生も加わってスタートしたのですが、実ははじめはうまくいかなかったのです。
ー架電プロジェクトのスタート時はうまくいかなかったのですね。どんな点がハードルになっていたのでしょうか。
中村さん:
振り返ってみると、数値目標がなかった点、電話をかけるという行為に薬局現場が慣れていなかった点、各店舗に任されすぎていた点が課題だったと思っています。
ーそこからどのように改善していったのでしょうか。
宮地さん:
数値目標については、例えば「まずは3人にお電話をしてみる」といったように、各店舗ごとにスモールステップで挑めるようにしました。お電話ですから、患者さんの状況によってはかけてみてもつながらない場合もありますので、まずはかけてみる習慣付けを大切にしました。
また、今回の活動は薬剤師のみが行える行為に該当しないため、薬局スタッフ全員で取り組むことにしました。研修は各店舗の薬剤師向け、各店舗の事務スタッフ向けといった形で実施し、薬局の全員に意義とフローを理解していただくようにしました。
中村さん:
定常業務としては、1週間を一つの区切りとして動いています。具体的には以下の4ステップになります。
【STEP1】月曜日に『Musubi』の分析機能を使い、一定期間に来局していない「患者リスト」を作成。その中から電話の必要がある患者を抽出する 【STEP2】週内で架電を実施 【STEP3】1週間ごとに作成した患者リストの患者数、架電数、通話数、相手の反応を取りまとめて本部に報告する 【STEP4】必要に応じて本部の担当者と薬局の担当者が面談する |
宮地さん:
プロジェクトのPDCAのうち、P(Plan)とC(Check)で『Musubi』の機能を活用しています。
ー中村さん、月曜の抽出作業にはどのくらいの時間がかかっていますか。
中村さん:
10分もあればできます。薬剤師が薬歴を確認するなどしていますが、リストと薬歴がひもづいているので、確認作業は簡単です。
ープロジェクトを始めてからの成果や変化を教えてください。
宮地さん:
とある月は、電話をかけたうち、54.8%の方が再来してくださり、売上で換算すると40万円以上の効果がありました。
中村さん:
私は最初にお電話をかけた患者さんと、雑談も含めてお話しでき、感謝の言葉までいただけたのが印象的で。中には短時間で終わってしまうケースもありますが、「気にかけてくれて、ありがとうございます」という声は、本当に何度もいただいています。
宮地さん:
いただいた声は、薬局内や本部とも共有するフローを構築しました。これによって全店舗で新たな業務に対する印象が変わり、ハードルが下がりましたね。
中村さん:
はい。他の店舗では、しばらく来局していない患者さんに電話をしたところ、他の病院に行き始めたため薬局を変えたと判明しました。ただ、その時にお電話で会話したことをきっかけに、また自局に戻ってきてくれたそうです。
もちろん、「電話1本で変わった」というより、元々の関係性があったから再来してくださったのでしょう。そう考えると、今まで地域の皆さんと築いてきた関係性が、今回のプロジェクトによって「見える化」したのかなと思います。
私たちの活動によって薬局は変わるのだ、と強く感じたエピソードです。
宮地さん:
活動を始めてから3~4カ月のタイミングで、電話で集まった患者さんの声を分類してみました。
来局していない理由別に見ると、「残薬があるから」「他の薬局に行き始めたから」「入院中など生活環境が変わった」が多かったです。そして感謝の言葉があったかどうかで見ると、3割のお電話で「ありがとう」という言葉をいただきました。
中村さん:
これはあくまでも現場からの報告文を基に分類したので、中にはそのニュアンスがあっても3割に入っていないケースもあります。言葉として寄せられているだけでも、こんなにたくさんの感謝の声をいただいていると実感できました。
久保社長:
振り返ってみると、データを基に何をすればいいかという課題が明確になり、目標を立てられたことで、全社の行動が変わっていったのだと思っています。
ー定常業務となった架電プロジェクトを通じて、感じたことはありますか。
中村さん:
『Musubi』で患者さんと薬局や薬剤師との結びつきが強くなったように思います。
薬剤師になって15年以上になりますが、投薬台の前ではなく、お電話で「ご体調などいかがでしょうか」と切り出すには、はじめは勇気が必要でした。
そこから変わっていけたのは、患者さんからのたくさんの「ありがとう」の言葉が、自分一人だけではなく薬局のみんなに寄せられていることが、店舗を超えて可視化されたからだと思っています。
ー今後の薬局経営についての思いを改めてお聞かせください。
久保社長:地域のためにも、薬局は変わっていかなければならないと思っています。
私たちの薬局は、記録が残るだけでも江戸時代初期からこの土地に根付き、生かされてきています。従業員一人一人の行動や、店舗づくりにおいても、地域のみなさんへいかに還元できるか、を大切にしています。今回の架電プロジェクトについても、経営理念にもある「地域の人々のこころとからだの健康づくり」に直結するアプローチの一つです。
『Musubi』導入直後だったと思うのですが、とある検査値の数値を入力したい、という意見が、現場から上がったことがあります。ひとまずカケハシさんに「このような機能があったらいい」と伝えるだけ伝えてみたところ、あっという間にアップデートされて。その時のスピード感には衝撃を受けましたし、私たちも変化していこう、という思いを新たにしました。
『Musubi』の様々な機能を活用した業務の効率化や平準化が、対人業務のさらなる充実につながると考え、患者さんのために使いこなしていきたいですね。(了)
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