さしせまる遠隔服薬指導の解禁。薬局はどう動くべきか? 薬局向けセミナーを開催しました
3月のセミナーでは、薬局の経営者・管理職の方々向けに、COO(現CEO)・中川が遠隔服薬指導解禁と今後の薬局経営についてお話しました。平日夜の開催にもかかわらず、会議室がいっぱいになるほどたくさんの参加者にお集まりいただきました! 当日の内容をコンパクトにまとめてお伝えします。
中川:
今日は、遠隔服薬指導が解禁される意味合いやその背景などをお話しさせていただきます。私自身が薬剤師ではなく、医療的なバックグラウンドを持たないからこそ、新しい切り口からお話しできればと思っています。
薬機法改正に込められたメッセージ
昨年末に出された「薬機法等制度改正に関するとりまとめ」には、遠隔服薬指導について“テレビ電話等を用いることにより適切な服薬指導が行われる場合については、対面服薬指導義務の例外を検討する必要がある”と記載があります。
今回の薬機法改正に伴って、遠隔服薬指導(オンライン服薬指導)が解禁になることが予想されます。薬機法の改正には、遠隔服薬指導のみならずいくつかの重要なメッセージが含まれていますので、まずは主なメッセージを抽出していきたいと思います。
薬機法改正に込められたメッセージとは何か。まずは指導の重要性です。2015年に厚生労働省から発表された「患者のための薬局ビジョン」をきっかけに、指導の重要性がうたわれるようになりました。次に、対物業務の効率化です。設備面・知識面での専門性の強化も大きなメッセージとなっています。
その中でも個人的に面白いと思ったのは、“患者が自身に適した機能を有する薬局を選定できるようにすることが重要”、という点です。現在の患者さんは、薬局ごとの特色や機能を意識せず薬局に行っていることが多いと思います。そうではなく、患者さんが自分に合った薬局を選び取る世界観を作っていくことが、「薬機法等制度改正に関するとりまとめ」の中で興味深いメッセージとなっていると思います。
また、薬機法改正の中での遠隔服薬指導解禁の意味合いも、個人的には興味深いと感じています。指導が重要であるとしつつ、同時に対面服薬指導義務の例外があると。「求められている服薬指導とは何か?」が重要な問いになってくるのではないでしょうか。
遠隔服薬指導解禁の背景と今後の流れ
遠隔服薬指導の解禁について今後の流れがどう進むのか、複数の視点を交えながら私なりの見解をお話ししていきます。
まずは、遠隔診療が解禁された流れを振り返ってみましょう。遠隔診療は1997年、離島やへき地において部分解禁されました。2015年の通達で“離島・へき地は例示にすぎない”とし、実質的な遠隔診療解禁となっています。その後、複数の新興企業が遠隔診療に関するサービスを開始し、社会的な注目を集めました。
その結果、遠隔診療はできても遠隔服薬指導ができない、という状態になっています。患者さんは遠隔診療で診察を受けても、処方箋を受け取って物理的に薬局に足を運ぶ必要があるのです。遠隔服薬指導の解禁は、遠隔診療が広がる中で必然だったといえるでしょう。
では、どんな形で遠隔服薬指導が解禁されていくのか。遠隔診療はまず離島・へき地から解禁し、その後に地理的な制限を外していきました。おそらく、今回の遠隔服薬指導の解禁も遠隔診療の解禁と同じようなステップで進んでいくのではないかと予想しています。
遠隔服薬指導(オンライン服薬指導)の普及率予想
長期的に遠隔服薬指導がどこまで普及するのか、他業界の事例を紹介しながら予想してみましょう。
経済産業省「平成29年度我が国に おけるデータ駆動型社会に係る基盤整備 (電子商取引に関する市場調査)」による業界別EC化率を見てみると、書籍でも26%、急速にEC化が進んでいる衣類でも12%となっています。EC化の開始から年数が経過している業界でさえ、過半数がオフラインで取引されている現状があります。
ここ数年で流行っているオンライン英会話についてもご紹介します。矢野経済研究所「語学ビジネス市場に関する調査を実施(2018年)」を見てみると、成人向け外国語教室市場が2100億円、e-learning市場が110億円で市場の5%程度の普及率となっています。こちらは、対面で行う服薬指導と似た事例になります。会話というコミュニケーションがオンラインに移行した時、どのような勢いで普及するのか。価格訴求力が強く便利で規制のない業界でさえ、EC化は限定的であることがわかります。特に安心・安全が重視される業界、しかも利用者の多くが高齢者であること、そして対面と遠隔で価格に大きな変化がないことを考慮すると、遠隔服薬指導の普及は限定的になるのではないかと予想しています。
患者さんのニーズと薬局の提供価値
大きな視点に立ち返って、患者さんの視点で見たときの薬局はどうなっているかを見ていきましょう。私がよくお話しするたとえ話に、ファストフード店と高級レストランの比較があります。早く安く食事を済ませたい人はファストフード店、特別な日にゆっくりと上質なサービスを受けながら食事をしたい人は高級レストランをそれぞれ選ぶでしょう。顧客のニーズに応じて、値段・サービス形態・店構えすら異なる多様な提供手段が飲食店には存在します。顧客は自分のニーズにあわせて、それを自然に選び取っています。
他方、患者さんのニーズを考えたときに、現在の薬局はどうでしょうか。私は30代、既往歴なし、花粉症の薬が欲しいと思っています。困ったら自分で調べたり添付文書を読んだりできるので服薬指導は軽めを希望しますし、仕事が忙しいのであまり待ちたくないというニーズがあります。まさに軽いニーズの患者です。先ほどの飲食店の例でいうと、ファストフード店を選ぶような顧客になります。もう一つは、私の祖母の事例です。80代、複数疾患があり、多剤併用中です。年金生活をしており、時間には余裕があります。これは、飲食店の事例でいうと、高級レストランを選ぶような重たいニーズをもった患者さんです。
現在の薬局は飲食店ほど多様さがなく、どんな患者さんにも同じようなサービスを提供している一方、患者さんには非常に多様なニーズがあるのではないか、と考えています。
私は経営戦略の専門家なので、事業戦略の観点からお話をします。ケビン・メイニーによる『トレードオフ―上質をとるか、手軽をとるか』という面白い本があります。著者は多様なビジネスを分析した結果、
「上質と手軽というもののどちらかを選択しなければいけない。中途半端な状態では生き残れない」
といっています。中途半端なところに落ちてしまうと失敗する、ということはよく経営戦略でいわれていることです。
今後の業界の流れの中で、自分の薬局は上質を選ぶのか手軽を選ぶのか、薬局側に選択があっても良いのではないか、と考えています。サービス提供者の論理ではなく、患者さん向けの価値としてどちらを目指して行くのか。「遠隔服薬指導が解禁されるからそれを導入しなければいけない」ではなく、主体的な意思決定をすることが大事なのではないか、と感じています。
患者さんに向き合う薬局にチャンス
最後に、本日のセミナーでお話した内容をまとめます。先ほど「求められている服薬指導とは何か?」という問いがありました。対面なのか遠隔なのかを問わず、薬の説明にとどまらない患者さんへの指導の質が問われているのではないか、と私は考えています。
足元でしっかり取り組まなければいけないのは、患者さんへの指導。逆にこれはチャンスだといえるのではないでしょうか。現在の薬局は、目の前のクリニックから処方箋が来なければ経営的に苦しくなる、という物理的な制約があります。遠隔服薬指導が解禁になれば、どんな指導ができるのかターゲットである患者さんに打ち出し、患者さんに選んでもらう環境を作ることによって物理的な制約を外すことも可能です。目の前のクリニック以外の患者さんが自分の薬局を選ぶ、ということを考えると、わくわくしませんか? 本当に患者さんのことを考える薬剤師にとって大きなチャンスです。本当にやらねばならない仕事に集中することが薬局の発展につながる、と私は考えています。
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